SIP第3期課題「サーキュラーエコノミーシステムの構築」
2025年1月24日に開催された「第2回公開シンポジウム」におけるパネルディスカッションの内容を掲載しています。SIPでの取り組み、サーキュラーエコノミーに関する日本とヨーロッパの違いなど、興味深い内容ですので、ぜひご一読ください。
第2回公開シンポジウム パネルディスカッション:サステナブルなプラスチックと無限の可能性を考える
司会

八木 亜希子氏
(フリーアナウンサー)
パネリスト(五十音順)

伊藤 耕三氏
(東京大学)

唐沢 かおり氏
(東京大学)

多田 貴則氏
((株)良品計画)

藤井 健吉氏
(花王(株))
進行
お待たせいたしました。これより「サステナブルなプラスチックと無限の可能性を考える」と題しまして、パネルディスカッションを開催いたします。司会はフリーアナウンサーの八木亜希子様です。八木様、どうぞよろしくお願いいたします。
八木氏
よろしくお願いいたします。
(今回の公開シンポジウムでは、サーキュラーエコノミーに関する)企業の取り組み、そして技術的にはどこまで進んでいるのかというところを基調講演でお話しいただきました。ここからは、そうした活動や技術が、私のような一般家庭にまで広がることができるのかどうか、また、それが持続可能にずっと続いていくために何が必要なのか。こうした課題などについて、皆さんからいろいろとお話を伺っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
それでは、パネラーの皆さんをご紹介します。
まずは、一番左側に座っていらっしゃいますSIPプログラムディレクター、東京大学特別教授 伊藤耕三先生です。よろしくお願いいたします。
伊藤氏
ご紹介いただきありがとうございます。プログラムディレクターを務めております伊藤でございます。よろしくお願いいたします。
八木氏
お願いします。伊藤先生はプラスチック素材の権威で、いつも、「日本のプラスチックは世界一なんだ」と胸を張っていらっしゃいます。特にプラスチックの素材の観点からお話を伺いたいと思います。
続いては東京大学教授の唐沢かおり先生です。唐沢先生は社会心理学の専門家で、SIPサブプログラムディレクターを担当していらっしゃいます。先日私も、循環型社会の実現に向けて、人々の行動をどう変えていったらよいのか、私はどう変わればよいのか、そんなテーマで対談をさせていただきました。どうぞよろしくお願いします。
唐沢氏
東京大学の唐沢と申します。今ご紹介いただいたように、社会心理学者なのですが、社会の中での人々の行動が、我々の領域の研究テーマです。ここの知見がサーキュラーエコノミーシステムの構築にどのように役に立つかを一緒に考えさせていただいております。よろしくお願いいたします。
八木氏
どうぞよろしくお願いします。
そして株式会社良品計画、多田貴則様です。多田様は環境に配慮した事業を積極的に推進していらっしゃると伺っています。その観点から現場のお話を伺いたいと思います。
多田氏
ご紹介いただき、ありがとうございます。ちょっと脱線してしまうのですが、私は学生の頃、伊藤先生の論文をよく読んでいました。ポリマーの大先生と一緒にここに立てているというだけで、すごく嬉しいです。今日は浮き足立たず、皆さまと良い議論ができればと思っております。よろしくお願いします。
八木氏
もともとプラスチックにご興味があったのですか?
多田氏
興味はなかったのですが、研究はしていました。(笑)
八木氏
そうなのですね。回り回って、今、現場で関わることになったのですね。どうぞよろしくお願いいたします。
そして、先ほど基調講演をいただきました花王株式会社の藤井健吉様です。サーキュラーエコノミーシステムの展望、そして海外からの視点などのお話を伺いたいと思います。よろしくお願いします。
藤井氏
花王の藤井でございます。よろしくお願いします。
八木氏
自己紹介がシンプルですね。先ほどお話しされましたものね(笑)。よろしくお願いします。まずは、再生プラスチックの自動車部品への活用について伺っていきたいと思います。
再生プラスチックから自動車部品を作製
八木氏
伊藤先生、先ほどの休憩時間に皆さまにも見ていただいた自動車のドアやダッシュボード。再生材で作られているのに、本当に臭いがありませんね。

グラブボックス(ダッシュボード)

ドアトリム・ロアー
伊藤氏
はい。ありません。
八木氏
胸を張られる自慢ポイントは、これを4カ月で実現されたことですね。
伊藤氏
そうですね。でも、私が実現したわけではなく、メンバーの皆さまのご尽力によるもので、特に、リサイクラーの皆さん。具体的には、(株)相田商会さん、(株)良品計画さん、石塚化学産業(株)さん。それからコンパウンダーとして三井化学(株)さん、石塚化学産業(株)さん、いその(株)さん。皆さんの力を結集して、しかも短期間で、少々無理を言ってお願いして、その結果、私としてはかなり良いものができてしまったのではないかと思います。
八木氏
できてしまった(笑)。そのぐらい、予想以上の結果だったということですね。先ほど、自動車部品について、普通だったらポリプロピレン(PP)の中でも少し特殊な「ブロックPP※1」と呼ばれるプラスチックを使うところ、今回は一般に使われている「ランダムPP※2」というプラスチックでできたことが大きなポイントというお話でしたね。
※1ブロックPP:強い耐衝撃性が特徴のPP。自動車部品(バンパー、バッテリーケース、エンジンルーム)や、洗濯機や冷蔵庫などの家電部品などに使用されている。
※2 ランダムPP:比較的柔らかく、透明性が高いPP。衣装ケースの本体、注射器の本体(シリンジ)などに使用されている。
伊藤氏
正確には一般家庭から排出されるプラスチックではなくて、PIR(Post-Industrial Recycled)※と呼ばれているものです。
※ 製造工程で発生した端材や不良品など、消費者に届く前の段階で出た廃材を再利用した素材。
八木氏
企業さんから集めたものですね。ですから、より厳選されている。
しかし、ランダムPPでできたということは、「家庭ごみのプラスチックでも自動車部品向けプラスチックにリサイクルできる可能性がある」ことが研究でわかったと言ってもよいのですか。
伊藤氏
そうですね。PCR(Post-Consumer Recycled)※でできるのかどうかも試していて、その結果がもうすぐ出ると思います。それがもしできれば、消費者が使ったもの、ランダムPPであっても、自動車部品製造の可能性を示せると思っています。
※ 消費者が使用した後に回収された製品や包装材を再加工して作られたリサイクル素材。
八木氏
例えば一般家庭から排出されるプラスチックだと、どのようなものに可能性がありますか。
一般家庭のごみが再生プラスチックになる
伊藤氏
例えば、良品計画さんが詳しいのですが、市販の収納ケースなどがあります。もしくは、ペットボトルのキャップといった容器包装プラスチック。他にも、使い捨てのソフトコンタクトレンズのケースなども可能性があります。
八木氏
ソフトコンタクトレンズのケースというと、アルミのシールをペリッと剥くものですね。
伊藤氏
はい。アルミを剥がして集めれば、あれは質の良いPPなのです。
八木氏
あれが良いのですね。先生の観点から言って、良いものがいろいろとあるのですね。お豆腐のケースなども良いものと聞いています。
伊藤氏
そうです。後でアミタさんがお話しされると思いますが、「こうしたものが良い」とお知らせすると、消費者の方もそれを洗って、持ってきてくださるのですよ。
八木氏
そうした気持ちは、私たちもありますよね。
伊藤氏
それを実際に使えるかどうかを、我々のプロジェクトで試しています。
八木氏
そういうことですね。その可能性ということですが、例えば良品計画さんの製品は、本当に良いものが多いのですね。
伊藤氏
多いです。
良品計画の活動キャンペーン
八木氏
良品計画さんでは製品の回収といった活動もいろいろとしていらっしゃいますが、多田さん、その効果はいかがでしょう。
多田氏
以前は、お客さまに使用済みの製品を持って来ていただいても、お客さまには何のインセンティブもなかったのです。しかし今では、弊社独自のポイントである「マイル」を付与しています。持ってきていただいたら1000マイル付与、キャンペーンのときは3000マイル付与しています。金額に直すと30円ぐらいなのですが。
八木氏
意外と、ちょっと残念な感じもしますが。3000マイルと言われると、とても良い感じがしますけれど(笑)。
多田氏
申し訳ないです。そこは是正の余地がありますね。ただ、その30円に目がいくというよりは、それで取組が周知される。回収キャンペーンを打った月は通常の1.5倍ぐらいの回収量になることがあります。
その前の段階で、弊社は店舗での回収をしているので、その店舗の協力も必要です。店舗の一番の目的は、やはり売り上げを大きくすることです。しかし、売上のスペースを減らして回収のスペースを確保し、そのための宣伝も打つというコストをかけるのは、最初は抵抗がありました。
八木氏
かなりスペースを取りますものね。
多田氏
はい。そのため、回収ボックスを隠す店舗も実際にはありました。しかし、しっかりと意義を社内で伝えて、なるべく工数をかけず、かつ、それを社内で取り上げていくことで店舗の協力も得られました。そこが一番、回収量が上がったことに貢献していると考えています。
八木氏
難しいと思ったところは、やはりスペースや、店舗の協力の部分でしょうか。
多田氏
そうです。今、右肩上がりに回収量が増えています。やはり、店舗の協力が増えれば増えるほど、認知が広がって回収量が増えるますので。
ただ、これは今、弊社だけの取組に留まっています。収納ケースは弊社だけで扱っているわけではないので、他の収納ケースのメーカーさんや、他の商材にいかに展開していくかが、これからの課題だと思っています。
八木氏
そうですね。良い先駆けになっていただければと思います。
唐沢先生、今のお話を伺っていかがですか。皆、意識はあるのですが、いろいろな手間があったり、スペースを取ったり、売上を求められたり、そうしたことで進まないという課題があります。このあたりはどのように考えていらっしゃいますか。何か良い方法はないでしょうか。

きっかけは30円
唐沢氏
本当に簡単な良い方法があったら、私、きっとビジネスを起こしていると思うのですが(笑)。ただ、今のお話を伺って、30円は微妙に良いラインだと思ったのです。きっかけとしてのポイントの30円。しかし、こうしたことはきっかけが大事です。「これ、やってみよう」というのは、何もないところだと起こらない。ちょっとした情報があって、ふと注意をひかれて、やってみる。そのやってみるときに、報酬が過剰だと、「報酬のためにやっている」と思ってしまいます。
それではダメなのです。これは将来的には、30円がなくても続かないといけない話なのです。
八木氏
そうですね、持続可能にするためには。
唐沢氏
そうすると、その30円は報酬としてのお金ではなく、「きっかけ」となります。行動することによって、私たちは「そうした行動をしている私」と自分を認知します。「私、リサイクルに協力しているじゃん。やっぱり私、環境問題は大事だと思っているんだよね」と。
八木氏
「私、ちょっと良い人」みたいな。
唐沢氏
そう。そんな感じです。そしてそれは、他のいろいろなリサイクルの行動にも影響します。「私はそういう人間だ」と。このような意識を作る上では、本当に微妙に良いポイント。さすがだなと思いました。
八木氏
ポイント制は良いですね。
唐沢氏
「30円」と言われるよりも、「3000マイル」。実は30円だとしても、今さら持ってきたものを引っ込めたりはしませんよね。やはり、「リサイクルしよう」となります。ビジネスの方はそうしたことを本当によくご存じだと、感心いたしました。
八木氏
ありがとうございます。こうした、定着していくために必要なことを工夫されながら、再生プラスチックの普及によって目指すところは循環型の経済を完成させていくこと。その方向に向かっていくことです。循環型経済というと、できるだけ資源の消費量を抑え、ストックを有効に活用することが、まず基本にあるわけですが、藤井さん、CDPスコア※でAAA(トリプルA)を何年も続けていらっしゃる花王さんとしては、どのようなところが進めていく上で難しいですか。今、課題になっているところなど、ありますか。
※ 企業の環境情報開示と取り組みを評価するグローバルな指標。
循環型の経済を完成させるための課題
藤井氏
そうですね、我々も、商品を通して社会と対話し、消費者と対話して、ある種の納得感があったときに社会が少しずつ変わっていく。この繰り返しの中で、今の日本の変化も起きているという認識を持っています。
ただ、社会制度として考えたときには別のアプローチもあります。「これをやらなかったら罰則、あるいは罰金を取る」といった制度をドンと作ってしまうと、ある種の強制力を持って、その新ルールが社会にガッと入ってしまうということが起きます。日常生活を送っていく上で、物の捨て方について普段はあまり意識していない人が、ものすごく不自由を感じるような強い強制力をかけてでも、強制的にそちらに移行させるという手は取り得ます。
八木氏
粗大ごみの廃棄にお金がかかるようになったときなどは、そうですよね。
藤井氏
捨てるのにお金がかかるのだったらそのまま使い続けよう、もしくは別の用途に転用しようなど、いろいろと考えるようになる。このような変化は、制度と、先ほど我々花王が示したボランタリーイニシアチブ(自主的な取組)のバランスで、組み合わせながら、最終的に社会が変わっていく。これが実際の姿だと思います。
ただ、制度の作り込みは、しばしば諸刃の剣となります。あまりにも経済不合理な制度、もしくは行動上あまりにも無理のかかる制度を作ってしまうと、社会が混乱する、もしくはおかしくなってしまいます。このケースであれば、極端な制度を入れすぎると、産業空洞化が起こり得ると思うのです。制度については、社会にフィットするかどうかをよく考えないといけません。
八木氏
バランスが難しいですよね。
ヨーロッパの取り組み
藤井氏
そのとおりです。まだ世界各国が悩んでいるフェーズだと、我々は認識しています。ヨーロッパであっても、まだ悩んでいると思います。
八木氏
ヨーロッパは進んでいるイメージが、私はあるのですが。
藤井氏
我々はヨーロッパでも事業を持っていますので、実はヨーロッパ27カ国に対する当事者でもあるのです。ヨーロッパの制度は、必ずしもうまくいっている状況ではありません。新しく法律をいくつか作っておりまして、パッケージについてはPPWRという新しい規則が、昨年末に採択されました。これはPackaging and Packaging Waste Regulationで、容器と、容器の廃棄に対しての規制そのものです。それをヨーロッパ27カ国との共通規則として、新しく作りました。
八木氏
それは企業側が負うものなのですか。
藤井氏
それと同時に捨て方に対しての制限でもあります。容器を捨てる消費者に対しても、ある程度の強制力があります。また、それを回収していく地方行政に対しても、ある程度の法的な拘束がかかります。
八木氏
容器を捨てるときに「混ぜてはいけない」といったことでしょうか。
藤井氏
どちらかというと、リサイクルに向けた分別の部分だけではなくて、そもそもリサイカブルな容器を設計しなさいという部分で、法的拘束があるのです。そもそも無駄な容器にしないために、中身に対して容器の遊びを何%以上にしてはいけない、つまり、中身の量に対して容器を過剰に大きくしてはいけない。
八木氏
たまにありますね、「あら、こんな少ししか入っていない」ということ。それはいけないのですね。
藤井氏
そうしたところまで条文で「やってはいけませんよ」と書いてある。これは、細かく規制を作ることで、いろいろなところから制限とプレッシャーをグッグッとかけていく制度の作り方の1つのアプローチなのです。たぶん、そのアプローチに合わせて、これからヨーロッパではある種の社会実験が始まります。我々、ヨーロッパで販売する製品を作り替えなければいけない側としては、その制度自体が必ずしもベストソリューション(最善の解決策)だとは、あまり思えないという状況です。
八木氏
企業が引いてしまう、そうしたところもあるのでしょうか。
藤井氏
(ありたい姿と)現代社会の標準技術にギャップがあったとき、本当はギャップを乗り越えるためのイノベーションが必要です。例えば伊藤先生のような強いポリマーサイエンティストがギャップを埋めるような技術を発明して、その技術が社会で使えるようになって、それでようやく乗り越えられる。そうした例はたくさんあります。「ありたい姿」ありきで規制をボンと作ってしまうと、「技術が追いつかない」ということはしばしば起きます。これはある種の、産業と社会のジレンマみたいなものだと思います。
八木氏
喫緊の課題として進めていかなければいけない、それは皆、分かっている。法的にもそのほかでも、いろいろな工夫をしている。しかし、やはりヨーロッパでも試行錯誤の段階だということですね。
藤井氏
本当にその通りです。実はヨーロッパでは法律を作ったあとで、運用に関する議論のためのフォーラムを新しく作っています。影響を受けるいろいろな産業界の人たちが皆出てきて、この法を実運用していくために具体的にどのような中身が必要なのかを議論しています。また、その法を遵守するためには具体的なガイドラインを作らないと何をすればよいか分からないので、それを作るためのメンバーも集まっています。そうした座組が、今年も段階的に進んでいます。
八木氏
不備については、あとでフォローしながら運用していくのですね。日本が足りないところは、そうしたところでしょうか。日本は、分別などは結構進んでいて、意識も高いと思いますが、実現に向けての課題はどうでしょうか。
日本とヨーロッパのアプローチの違い
藤井氏
そうですね。私は日本のやり方は、ヨーロッパとはまた違う優れたアプローチだと思っています。日本の場合は、実はこの循環経済の実現に向けての基本法を、数年前に作っているのです。それはヨーロッパのように、細かい部分を法律で全部規定するような中身ではなく、「基本方針としてはこうあるべきだ」として指針を定めるという内容です。これは国として、法律としてきちんと定めて、産業界や消費者も含めて、社会全体がその基本法に則って社会を変えていきましょうという大きな方針です。そこに対して、ではどのようにして実現していくのかというイノベーションの部分は、逆に言うと、アカデミアにも産業にも委ねられている。私たちは基本法を真剣に咀嚼しながら、目標の実現のために必要な技術を作ろうとしているわけです。
ヨーロッパは、「罰則規定で縛ることで無理に社会を変えていく」というアプローチ。日本は、「基本法があれば、5年後には社会はじわじわと変わっていく」というアプローチ。アプローチとしては違うのですが、どちらでも社会は変わり得る。さらに言えば、これは社会の文化的特性なのではないかと思っています。

八木氏
自発的にできるような形が、いろいろと残されているということですね。
伊藤先生、技術の立場から、循環型社会や、ストックの有効活用があまり進まないことなどの要因について、どのように考えていらっしゃいますか。
伊藤氏
そうですね。1つ、藤井さんに質問してもよろしいですか。
八木氏
もちろんです。
伊藤氏
先ほどのお話のパウチですが、とても良い素材を使っていますね。しかし、なぜヨーロッパの人たちは使わないのでしょうか。なぜヨーロッパで流行らないのか、教えていただけますか。
ヨーロッパでは詰め替えパウチが売れない
藤井氏
詰め替えパウチのお話ですよね。あれだけで(シャンプーなどの容器に使用される)プラスチックの使用量を、90%以上減らせるのです。ヨーロッパの市場でも1990年代から少しずつ、製品として並べています。棚に、大きな容器とそれの詰め替えを一緒に並べているのですが、しかし、詰め替えは全然売れないのです。
八木氏
不思議ですね。
藤井氏
それは、消費者が何をどう理解しているかという話です。少なくとも、「柔らかくて薄い容器(プラスチックをあまり使っていない容器)の方が何かしら良いものだ」という認識が、常識として全くないのです。
八木氏
値段が少し安いとお得だ、という感じはあるのですか。
藤井氏
そこは我々メーカー側が工夫できる部分であり、それはやっているのですが。
八木氏
それでも変わらないのですね。
藤井氏
立派な容器のほうがお得だという感覚のほうが、たぶん強い。このような状況が、まだ続いています。
八木氏
調査すると、そのような理由だというわけでしょうか。
藤井氏
消費者の購買行動が、全く変わらないのです。
八木氏
私は、先ほどご紹介のあった、あまり売れなかったというパウチが自立するような商品、見たことはありませんでしたが、あれでよいと思いました。
藤井氏
逆に言うと、これはプラスチックに課題意識を持った現代に改めて問いかけて、初めて変わるのかもしれません。1990年代、2000年代前半には、まだ社会の状況が違っていたということかもしれません。
八木氏
時代が変わると、そのあたりもまた変わるかもしれませんね。
藤井氏
ヨーロッパの場合はその状況の中で、「加盟国ごとにプラスチック容器包装の量に対して税金をかけます」という法律※にしてしまっているのです。そうすると何が起きるか。メーカー側は、製品の容器包装に対して税金が取られるようになる。EPR(Extended Producer Responsibility)、拡大生産者責任です。そのため、ここで初めて、容器のプラスチック使用量を本気で減らすインセンティブが事業者側にも出てきた。つまり今回の法律で、初めてヨーロッパの市場に詰め替えが増える可能性が高くなりました。
※ EUプラスチック税(2021年1月1日施行)。各加盟国に支払いの義務があるため、各国で事業者等に対してプラスチック包装容器の使用に関する課税制度の策定が進んでいる。
八木氏
やはり、そこは法律が先なのですね。
藤井氏
法律ができて初めて変わる国・地域と、ボランタリーで(自発的に)変えてしまう国・地域である日本との文化的な差。これはかなり大きな差だと、我々は実感しています。
八木氏
その辺はちょっと、良い話だと思います。
伊藤先生、有効利用が今ひとつだというのは、どのようなところでしょうか。
プラスチックの素性を明らかにするPLA-NETJ
伊藤氏
やはり、1つは「素性が分からない」ということ。PPなのか、PE(ポリエチレン)なのか。プラスチックの種類は、実はたくさんあるのです。しかし、消費者の方は捨てるときには分からない。分かったとしても、先ほども申し上げたように、PPにもいろいろなものがあるわけです。それを基にリサイクルを行い再生材として供給するリサイクラーさんも同様で、素性や物性を担保できないことが多い。動脈企業のマッチングが進まない大きな理由だと思います。
例えば「豆腐のパックからはこんな物性の再生材ができますよ」、「この再生材はペットボトルのキャップ由来のものですよ」と分かれば、皆さんはそれを集めて使おうと思ってくれるはずです。そのためにやはり、プラスチック再生材の「データバンク」が必要なのです。
それを今、東北大さんが中心になって、プラスチックの素性ごとの性質を明らかにしてくれています。それをPLA-NETJという情報流通プラットフォームに入れれば、それを見るだけで「これは使いやすい」「これに使います」と、需要側と供給側のバランスがうまく取れるのではないかと思います。
集めてくる側としては、使い道が決まっていないと、集めるインセンティブが働きません。しかし、例えば「将来的にはこのくらい値段がついて、このくらいの値段で高く売れます」となれば、一生懸命に集められます。その意味で、データの素性を厳密に明らかにすることが大切です。それがデータバンクだったり、先ほどお話ししたグレーディングだったり。PLA-NETJは、そうした性質のものだと思います。
八木氏
先ほどさらりとおっしゃいましたが、使うために破砕して、こんなに小さくなっても、情報は壊れないのでしょうか。
伊藤氏
はい。放射光で、ナノレベルで分かるのです。ナノは、原子レベルです。ですから、ものすごく少量であっても分析できます。話は飛びますが、昔、和歌山でカレー事件がありました。あのとき、ヒ素が入っていることは、放射光で見つけたのです。ほんの微量であっても分かる、最先端の設備があるのです。
先ほどお話ししたように、安全性に問題があるものが入っているかどうか、そうしたことが全て分かります。豆腐の容器から持ってくれば、「これは大丈夫です」と分かり、誰もが安心して使える。その意味でも、最先端の技術を駆使して、そのデータを情報として共有できることが、サーキュラーエコノミーにはとても重要だと思っています。
八木氏
先ほど打ち合わせしていて思ったのですが、このようにプラスチックリサイクルの技術が進んではいても、意外と輸出されている再生材が多いのですね。これはどのようなことなのでしょうか。
リサイクル技術がすごいペットボトル
伊藤氏
そうなのです。今までは、せっかく集めても使えなかった。
ペットボトルは別ですが。ペットボトルはリサイクル技術がすごいのです。私も25カ所ぐらいリサイクラーを回ったのですが、ペットボトルはペットボトルとして再生できるだけの技術があります。
しかし、他のプラスチックはできていませんでした。どうしても品質が悪くなってしまい、日本では使えなかったのです。それで海外に輸出していた。
しかし、もともと資源のない国なのに、輸出してしまうのはもったいない話です。本当は輸出をやめて、それを国内でアップグレードして、ちゃんと使う。あるいは、より困難な自動車などの分野に使う。こうした仕組みをきちんと作る、そうした技術を確立することが、非常に重要だと思います。それを今、このプロジェクトで、アカデミアがサポートしてやっています。それができればたぶん、輸出もしなくて済むのではないでしょうか。
八木氏
そのように変わるためには、企業の努力が必要ですか、それとも私たちでも、例えば、もっとリサイクル商品を買うなどすれば変わりますか。そうした意識が高まって売れるようになれば、国内で回っていく可能性は出てくるでしょうか。
伊藤氏
両方だと思います。企業さんも、品質の高いリサイクル品を作る技術を磨く必要があります。アカデミアもそれをサポートする必要があります。消費者の皆さんもそうです。日本人は良いものを集めてくるのは得意だし、分別も得意です。先ほどのペットボトルもそうです。しかし、再生品をなかなか買いたがらないところが、やはり、あると思います。
八木氏
確かにそうですね。
多田さん、そのあたりは実感されている部分はありますか。伊藤先生が、日本人は再生品をなかなか買いたがらないところがあるのではないかとのことですが。
日本人は再生品を買いたがらない?
多田氏
そうですね。弊社としては、再生材を使っていようがいまいが、コストも品質もバージン(新品)のものと変えず、提供することを心がけてはいます。
一度、アンケートを取ったことがありました。バージンのものと再生材を使ったものを同じ店頭に並べて、どちらが売れ行きが良いか。
八木氏
値段は一緒ですか。
多田氏
一緒です。比較すると、売れ行きはほぼ変わりませんでした。見た目もコストも同じなので変わらなかったのです。ただ、再生材のほうには環境に良いことや、定量的な「環境負荷を何%削減しています」などの情報を付け加えましたが、変わりませんでした。そこはまだ、お客様にとっての価値につながっていないのだろうと感じています。それは伝え方なのか、情報の種類なのか。何を伝えていけば変わるのかは、今後、コミュニケーションを図りながら見つけていきたいと考えています。

八木氏
面白いアンケート結果ですね。
唐沢先生、どのように思われますか。私だったら「エコなほうを選ぼう」という気持ちになりそうですが。
プラスアルファのストーリーが必要
唐沢氏
そうですよね。私もその結果を最初にお伺いしたとき、ちょっと残念だなと思いました。買う人は、何で決めているのでしょう。同じ品質で同じ値段なら、それはどちらを選んでもよいはずですが、これを再生材の方にシフトさせていくとき、どのような説明をし、どのような情報を与えたらよいのか。これがまさに、今、取り組んでいらっしゃることだと思います。
単に、「環境に良い」ではダメだった。では、次のプラスアルファは何だろう。もっと付加的な説明が必要なのかもしれないし、もっと分かりやすいことが必要なのかもしれない。「環境に良い」ということは、1つの価値です。しかし、もしかしたらそのレベルで話されると、「自分とはやや遠い」と思うのかもしれない。
例えば、自動車の部品がペットボトルのキャップからできるというのは、ある種、想像を超えた話であり、ちょっとワクワクする話です。そうしたストーリー性みたいなものが「環境」という形で付け加えられるとよいのでは。単に「良いですよ」、単に「負荷が下がりますよ」よりも、物に何かしらのプラスアルファのストーリーを付ける。
モノづくりをしている方は、私が話すまでもなく、きっといろいろとお考えのことと思いますが、それを例えばサーキュラーエコノミーという文脈の中でどのように構築していくかを、例えば良品計画さんが取り組んでいらっしゃるプロジェクトの中でやってみると大変面白いのではないかと思います。そして、そこには技術のバックボーンがある。ポリマーの第一人者をはじめ、いろいろな企業の方が集まって、総合的に議論して、そして最後に、消費者のところにどうつながっていくか。
提供する情報は、例えばリサイクラーさんがどのようなことをしているか、リサイクル技術の先端がどのようなものか、こうしたことがもしかしたら面白いかもしれません。あるいはもっと別の、メタなレベルの環境の話を広げてもよいのかもしれない。そのあたり、やってみたらと面白いかもしれないと思っております。
八木氏
確かに、打ち出し方が大きく影響するのかもしれません。「これはエコです。再生材を使っていて、良いですよ」と言うよりも、「これで温暖化にちょっと貢献して、ちょっと涼しくなりましょう。あと何個売れたら、ちょっと下がりますよ」みたいな感じで。そのあたり、藤井さん、どう思われますか。
藤井氏
我々も商品のブランディングをしています。先ほど社会が反応しなかったパターンを具体的にお見せしましたが、良かれと思って製品設計しても、本当に響かないことがたくさんあります。
ただし、価値を伝達するのはとても大事なことです。そして、時代とともに伝わりやすい価値が変わっていってもよいと思っています。
今日、私たちが議論しているようなサステナビリティの課題は、今までは社会のトッププライオリティではなかったかもしれない。しかし、もっと皆が大事にしてよい課題、意識してよい課題だと思いますし、その伝わり方は変わり得るのではないかと思っています。
ただ、我々の正直な感覚を言うと、「試行錯誤」です。
リサイクルの世界共通の設計図
八木氏
先ほどの基調講演で少し気になったのが、「リサイクルの世界共通の設計図を作ろうとしているけれど、なかなか進まない」といったところ。このあたり、世界の意識はどうなのでしょうか。世界レベルでやっていかないと、ということもあるし、ある意味ではSNSの広がりによって世界とすぐにつながれて、前よりは共通の話ができるようになっているということもあると思います。このあたりはどのようなハードルを考えていらっしゃいますか。
藤井氏
これは最後のほうでお話ししましたが、プラスチック条約について、世界170カ国以上の政府代表者が集まって、昨年11月末に韓国の釜山で第5回の会議をしました。会場ではそれぞれの国の代表者が、自分たちの国としては何ができるのかを考えて、持ち寄ってという状況でした。その意味では、課題には共通性があるのです。ところが、では具体的にどうすればよいのか、Howの部分での議論が進まないのです。皆が納得できるようなHowを、どの国も提示できていない。しかし、日本はものすごく頑張って、イニシアチブを取ろうとしています。日本の提案は、非常に地に足のついた、しっかりしたものなのです。
八木氏
プラスチックの技術は世界一ですから、リードできそうですよね。
藤井氏
サーキュラーエコノミーのプラスチックを使った製品設計も、経験値があって、工夫している。ですから、よりリサイカブルな設計はどうあるべきなのかというところは、実はこの条約の中で、日本がすごくイニシアチブを出しているところなのです。その意味で、日本らしさがあると思うのですが、しかし全体としては、全然コンセンサスができません。できると思っている技術や、プラスチックを正しく使うことに対してのコスト的な責任を誰が持つべきなのか、そうしたことについて、見えている像が違うのです。
八木氏
お金がかかるという問題があるのですね。
プラスチックは悪?
藤井氏
そうですね。本当にお金はかかるのです。再生材はバージンよりも高いので、コスト問題はあると思います。ただ、いろいろとアイデアを持ち寄ってもコンセンサスができない(合意に至らない)というのは、憂慮すべき状況です。それと同時に議論の中で、どちらかというと「プラスチックが嫌い」という人が増えてしまっている状況に突入しています。
八木氏
なるべく使わない、という方が増えているのでしょうか。
藤井氏
使わないどころか、「プラスチックは人類を滅ぼす悪」というような(笑)。
八木氏
だから紙のストローを。
藤井氏
実際、そうした発言が会議の中で出てくるような状況になっていて、それは本来の目的からすると残念な状況だと憂慮しています。やはり、プラスチックは必要だから、容器で使われていたわけです。容器以外でも、例えば建材などにも使われています。家具や机もプラスチックが多いわけです。何かしら有用性があって使われているのですから、本来は好き嫌いの問題ではないはずです。プラスチックは、本当に社会で必要な基盤インフラ。ところが、なぜかその条約の話の中では、「プラスチックで地球が汚染されていること自体が許せない、嫌だ」となる。
感覚的には、もちろん分かります。環境をきれいにしたいわけですから。しかし、Howのところに対しては、もう少し現実的な、ロジカルな考え方があってよいはずなのです。
条約の中で実際に起きてしまっているのは、少なからぬ人の嫌悪感のようなもので、それによって議論が進まないことです。循環型で使うためには建設的で現実的な設計図が必要ですが、その議論が全然進まないのは、非常に残念なことだと思っています。
八木氏
持続可能を考えれば、うまく循環させていくことが、より早い方法だという気もするのですが。
藤井氏
そこを真剣に議論する必要がある状況なのに、好き嫌いの議論になってしまっているのは違うのではないかと、現場にいて感じました。
モノ消費よりもコト消費
八木氏
なかなか進まないのですね。
今日、いろいろとお話を伺ってきましたが、会場の方からも事前に質問をいただいています。多田さんにお答えいただきたいと思います。
「リサイクルに不向きな製品がたくさん販売されていると感じています。例えば日用品は今、サブスクやレンタル、カーシェアリングなどのシェアといった、モノ消費よりもコト消費といったことがうたわれ始めています。しかし、プラスチック製品では、そうしたものがなかなか見られません。原因は何でしょう」。
多田氏
なぜなのでしょうね(笑)。
八木氏
家具はサブスクをされていますよね。
多田氏
はい、家具はしています。しかし、企業側の目線では、ある程度高価格のものでないとサブスクにできません。サブスクは回収して、その後メンテナンスして、またお届けする。そうしたプロセスがあり、回収とメンテナンスの費用が乗ってくるので、プラスチックのように軽くて安価な製品においては、なかなか成り立ちづらいビジネスモデルなのではないでしょうか。
生活者の目線からすると、例えばお菓子の袋などの容器包装以外のプラスチック用品は、それほど捨てる機会はないと思うのです。だから、そこに対して自分のものだという所有意識であったり、長く使うからこそ、人が使った後のものはきれいなのだろうかといった疑念があったりするのではないかと思います。
八木氏
なるほど、そうしたところがあるのですね。伊藤先生、これから進んでいく可能性はありますか。
伊藤氏
私は月に1回程度、リサイクラーさんを回っています。去年、複写機のリサイクラーさんへ行きました。複写機は完全解体します。しかも、使った履歴も全部分かっています。彼らは物を売るのではなくて、リースをする。メンテナンスの費用、トナーなどが利益になります。社会としてはやはり、そちらへ行くのではないかと思います。
プラスチックは素材なので、素材単位でそこまでやるかというのは、よく分かりません。つまり、利益を出せるのかどうか、ということです。プラスチックはサブスクとして使うには確かに安いし、向いていないと思います。もう少し複雑な製品になれば、その中でプラスチックが使われると思いますが。そのような形で、サブスクで循環する製品の中の1つの素材としてプラスチックが使われるというのは、あるのかもしれません。
八木氏
むしろそれよりは、完全なリサイクルをしていくほうが、プラスチック素材においては向いているのですね。
伊藤氏
素材としてはそうだろうと思います。部品としてプラスチックを使った製品のサブスクは、あると思います。
日本の資源を国内で循環していくための課題
八木氏
もう1つ、先ほども出ていましたが輸出に関して。例えば、容器包装のリサイクル法などで回収されたプラスチックが、海外へ一定量輸出されているというお話がありました。これに対して質問をいただきましたので、藤井さんにお答えいただきたいと思います。
この問題において、日本の資源を国内で循環していくために必要な施策や、政策で議論されている内容があったら教えていただきたいということです。
藤井氏
輸出の問題は、日本がリサイクルを上手に回せるだけのインフラが揃ってくると、今度は我々がリサイクル原料を輸入してリサイクルを賄うことも起こり得る。その意味では、相互の問題だと思います。
ただ、大事なのは、適正な範囲で使われたプラスチックのウェイストが、世界各国でそれなりの量が出る一方、国内でリサイクルを本当に回しきれるか分からない。そのため、リサイクルを引き受けられるパワーのある国が、外国のものをグッと引き受けて、質の良い再生材を、その地域の産業に対する資源として供給する。こうしたことが、この先、起きてよいはずなのです。
では、誰がその役割を担えるのか。リサイクルできる技術プラットフォームをある種のインフラとして、どの国がそろえるか。海岸線に近いところでないといけないはずですし、そこをどうするのかという、いわゆる国家戦略のような部分になるのではないかと思います。その意味では、単に「プラスチックごみを外国に押し付ける」といったかつてのイメージではなく、相互に引き受けあって、本当に使える材料にすること。それが周囲全体にとってのベネフィットだというイメージを、今、持っています。たぶん、そこがとても大事だと思います。

八木氏
国境を超えて、大きく全体で考える。
藤井氏
これはそうした意味で、本来あるべき資源の議論になるはずです。再生材が使えるものにできるのであれば、その資源を共有する。それが技術的にうまく回りきらないときに、あまり資源にならないような質の低いものを押し付け合うというのが、この数年間、輸出問題としても議論になった部分です。そこは乗り越えるべき課題です。
さらに言えば、どうしても質が低くなってしまうプラスチックが必ず出るので、それをどのような用途で使うのかについて、社会全体できちんと議論をすべきです。それに対しての真っ当な、最終的な用途を何かしらのアップサイクル※のアイデアの中で見つけて、社会として受け止める場所を用意する。最後、燃やしてしまうだけではなく。
※ 廃棄物に手を加えて、元の製品よりも価値の高いものに生まれ変わらせること
やはり、議論がうまくいかないので、議論を避けてしまう。それに近い部分もあるのだと思うのです。しかし、これは必要な部分ですし、我々もそこを丁寧に考えるべきだと思います。
八木氏
そうですね。それから、プラスチックのサブスクの話で言うと、おもちゃもよいかもしれないと、先ほどおっしゃっていましたね。
藤井氏
はい。アップサイクルは、少し頭を柔らかくして、可能性を考えてよいはずなのです。プラスチックは独特の柔らかさがある素材であることは間違いないので。最後の、質の悪いプラスチックとして出てくるものは、不純物などいろいろなものが入ってしまって、きれいに使いきれないと思います。それを、社会のどこであればちょうど良いニーズとして受け止められるのか。それを皆が見渡し、発見して、回せるようにトライアルしていくことが必要なのだろうと思っています。
八木氏
今日、いろいろとお話を伺ってきて、あっという間に時間がなくなってしまいました。藤井さんには基調講演をいただきましたし、多田さんにも後ほどお話を伺いますが、ここまで皆さんにお話を伺ってきて、唐沢先生、今日のパネルディスカッションで感じたことを皆さんにお話しいただけたらと思います。
消費者の意識
唐沢氏
最初に八木さんが、「消費者として、いろいろな技術に関する知見やビジネスの取組をどのように」とおっしゃいました。私は、化学式は全く分からないし、企業に勤めたこともないので、消費者と同じような立場で、ここにいつもいさせていただいています。
物を買い、それを使ったあとにどのようにするのか。捨てるにせよ、次回に回すにせよ、その先のところまで、消費者としてどう責任を持つかが大事で、そのポイントのところで私たちの行動を考えていく必要がある。つまりは消費者の意識が大事です。
その意識変革のために、という話もありますが、それを支える制度や企業の方々の取組、どのようなものが私たちの選択肢としてあるのか。これもやはり、社会実験的なところがあって、そうしたことをきめ細かにやっていくことが非常に大事であるという印象を持ちました。
今日の基調講演のお話でも、なぜ国内ではシャンプー容器等の詰め替えパウチは売れるのに、エア※のものはダメなのか分からない。かさばるからだろうかとか、そんなことしか思いつかないのですが。やってみないと分からないことが多いですね。
※ 詰め替えパウチと同様に柔らかいフィルム素材で構成される容器で、外側に空気を入れて膨らませることで自立させることができる。
八木氏
そうですよね。私が思っているものとも違って驚きました。
唐沢氏
そのように、やってみないと分からないことある。それから、「今はダメだが、3年後にはよい」といったことなどもあると思うので、やはり継続的な営みがとても大事だと、今日、思ったところです。
その中で、消費者として私たちにいったい何できるのか。「知る」、「考える」から、まず始める必要があるのだろうと思います。「知る」、「考える」はボーッとしていたらダメなのです。きっかけが必要です。
八木氏
ボーッとしてしまうのですよね、これが(笑)。どうしたら良いでしょうか。
唐沢氏
でも、素人がいつも考えていたら大変ですよね。
八木氏
そんなに意識の高い人は、なかなかいませんよね。「常に考える」のは、難しいところがありますね。
唐沢氏
ただ、やはり、働きかけがあれば。もちろん、「プラスチックをどうしよう」とずっと考えるわけではないけれど、働きかけがあれば、意識がそこへ向く。ちょっと考える。
八木氏
そうですね。店頭でふと立ち止まって、「なるほど」と思うことがありますものね。
唐沢氏
その機会を増やしていくこと、どのような情報を伝えていくかということ。それについて、ここに関わっている皆さまの知恵が結集すると、消費者もより少し賢く、何かアクションできるようになっていくのではないかと思いました。
八木氏
そうですね。以前、ふたりで対談したとき、アミタホールディングスさんのお話をしましたね。回収ステーションが皆のコミュニケーションの場になる、よもやま話をするための場になる、待ち合わせ場所になる。このあとでアミタホールディングスさんからお話があると思いますが。
唐沢氏
付加価値が付いていることは重要なことだと思います。サーキュラーエコノミーも、「環境問題のために頑張っているのだ」というだけではなく、そこに楽しさやプラスアルファが加わると、よりうまく回るのではないかと思います。
八木氏
付加価値をさらに生む。これも大事なことだということが、循環型経済の中に入っているわけですが、伊藤先生、今日のパネルディスカッションのまとめをお願いします。
SIPのこれからの取り組み
伊藤氏
今日のお話を聞いて面白かったのは、やはり、環境問題として訴えても、あまり響かないということ、そして自分の「身近なこと」という意識を持つことが大事だということです。それから、ストーリー性があることがとても大事だと思っています。
SIPでは今、いろいろな自動車の部品を作っています。たぶん来年度は、もっとTier1さんを増やして、部品をたくさん作ります。いろいろなプラスチックを集めてきていますので、「この部品に使える」というプラスチックが増えてくると思うのです。これは夢物語で、朝起きたときに思いついたぐらいの話なのですが、部品がたくさんできたら、再生材で車を造ってみたら面白いのではと思っています。
八木氏
プラスチックだけではなく、いろいろな再生材で造るのですか。
伊藤氏
それもよいですね。そうした車を造って、日本全国キャラバンをする。あちこちに行って、消費者の皆さんが、車にあるバーコードをスマホで読むと「あ、これは、私が捨てた豆腐の容器で作られたんだ」と分かる。
八木氏
「私のだ」と分かるのですね。
伊藤氏
そうしたことがあると、身近に感じてもらえるのではないでしょうか。
八木氏
そこまでデータの履歴を出すことは、今、可能なのですか。
伊藤氏
その頃にはできているだろうと思います。頑張りますので(笑)。
八木氏
今すぐの話ではないのですね。
伊藤氏
そこでアミタホールディングスさんのお話になりますが、やはり、自治体の協力が重要です。例えば市長さんや県知事さんに身近に感じてもらって、「うちの市でもやろう」、「うちの県でもやるか」となると、日本全体でそうした動きになるのではないかと思います。
こうしたことを考えて自動車メーカーに話を振っているのですが、ノリが悪いのです。
八木氏
ノリの問題でしょうか(笑)。
伊藤氏
もちろんSIPでも取り組みますが、やはり、皆さんの体験がそうしたものに結びつくと、日本人は同調意識が強いので。八木さんにもアドバイスをいただきましたが、日本人は動き出すと、サーッと動くようなところがありますよね。
八木氏
一度そちらに流れると、同じ方向へサッと流れる。
伊藤氏
まさに、そのきっかけが大事だと思います。皆さんが目にして、しかも体感できる。そうしたデモンストレーションができると面白いと思っています。実は先週、内閣府に言ってみたのですが、スルーされました(笑)。予算も必要なので。
八木氏
先立つものや、いろいろなことがありますものね。
伊藤氏
でも、そうしたことができれば面白いなと思いました。
八木氏
ありがとうございます。
サーキュラーエコノミーについては伊藤先生のお誘いで、いろいろと勉強させていただいています。最初は「そんな難しいことはちょっと」と思ったのですが、でも伺っていると、自分が身近に使っている容器や、毎朝捨てているごみがリサイクルできたらと考えるようになり、本当に身近な話なのだと改めて思いました。これは一人一人が接していること、関係していることだと思います。
皆さんと話していると、より手触り感があり、すごく楽しい未来を考えられるような可能性も感じられる分野だと思えます。ぜひ、皆さんと一緒に、楽しい循環型経済の実現に向けて、一歩でも二歩でも進んでいけたらと思っております。
今日は、パネラーの皆さまには貴重なお時間の中、ありがとうございました。
どうぞ、皆さまに大きな拍手をお送りください。