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地球環境基金レポート 2020

ベストプラクティス事業 case2
持続可能な事業モデルがもたらす、新たな活動のひろがり

「自伐型林業」の普及を通して、中山間地域を見守る上垣喜寛さんの写真
「自伐型林業」の普及を通して、中山間地域を見守る上垣喜寛さん

中山間地域の未来の創造へ
全国にひろがる「自伐型林業」のネットワーク

1.活動について
~森林という資源を100年以上先の未来にのこす、「自伐型林業」の普及・啓発を進める~

持続可能な環境共生林業を実現する自伐型林業推進協会(以下、自伐協)は、森林環境と共生する「自伐型林業」の全国への普及・啓発を図るNPO法人です。
 日本の林業は、山の所有者が林業者に木々の伐採や搬出を任せる「委託型林業」が一般的でしたが、大規模な重機を使って短期間で大量の木々を伐採するため、森林が持つ機能を失わせるリスクが高くなります。
 一方「自伐型林業」は、山の所有者や地域住民が自ら小さな重機で作業道をつくり、伐採、搬出、販売を行う小規模な林業のため、木々を伐り尽くさず育てることができ、長期的に安定した収入を得られるのが特徴です。自伐協が進めるこの林業モデルは、森林を保全するだけでなく、新たな生業を生み出し、地域が抱える人口減少や獣害などの課題解決にもつながるため、持続可能な地域づくりへの第1歩として、国内でも注目を浴びるようになっています。
 また「自伐型林業」は、近年多発している土砂災害防止の対策になり、さらに生態系豊かな人工林や広葉樹林を創り上げることが専門家により証明されたことも、活動の推進力につながっています。

  • 「委託型林業」によって行われている大規模な伐採の写真
  • 大規模作業道に入った風により吹き倒された木々の写真
  • 中山間地域のこれからを担う若者たちの写真
  • ①「委託型林業」によって行われている大規模な伐採
    ② 大規模作業道に入った風により吹き倒された木々
    ③中山間地域のこれからを担う若者たち

2.活動の成果と助成金の活用方法
~中山間地域の次代の担い手育成へ、全国の自治体にひろがるネットワーク~

「『自伐型林業』を通して中山間地域を活性化することが、私たちのミッションです。これまでも、家族単位で伐採や森林管理を行う事業者はいました。しかし、2009年に小規模林業者への国の補助がなくなると、こうした事業者は減少し、中山間地域の過疎化の原因の一つとなったのです。」(上垣さん)
 「自伐型林業」をひろげる活動の柱は、自治体への普及・啓発と、担い手の育成でした。まず中山間地域の活性化を図りたい自治体に対し、「自伐型林業」の情報提供や提案を行いました。「国への政策提言も考えましたが、まずは地域での成功事例をつくるという戦略にしました。これは今振り返れば正解だったと思います。」(上垣さん)
 5年間にわたる働きかけにより、市民フォーラムや研修が次々と開催され、現在では54の自治体で支援活動が予算化されています。この活動を支えるため、全国各地で地域推進組織が立ち上がり、研修運営や山の所有者の相談窓口を担うなど、地域に根付いた活動を進めています。
 「自伐型林業」の担い手の育成は、IターンやUターンの希望者を中心に各地で実施していて、作業道づくりから伐採、搬出まで、実務的な作業が学べる内容になっています。こうした担い手育成の結果、高知県や鳥取県などで、各自治体30名を超える若い世代が「自伐型林業」に就業していることは、活動の大きな成果です。「高知県佐川町の就業者の中には、私の大学時代の後輩もいます。東京の出版社に勤めていましたが、自然の中で仕事がしたくて佐川町で就業し、今では自分の山を所有して移り住んでいます。」(上垣さん)
 自伐協は、2021年度、東アジア諸国で優れた環境活動を推進する団体から選考される「日韓国際環境賞」を受賞しました。
 自伐協の幅広い活動を可能にしたのは、助成金の活用です。「普及推進メンバーの交通費をまかなえたので、各地域で生まれる講習会の要望に応えることができました。」(上垣さん)また、若手プロジェクトリーダー育成支援プログラム(詳細はp.12)も活用し、賃金の助成を受けながら、組織運営を学ぶこのプログラムに上垣さんも参加しました。研修での経験と学びを今も団体運営に活かしています。

専業でないと林業への参入が難しい“いびつなピラミッド”から、山林所有者や一般市民がステップアップして林業に関わり生業にできるような仕組みづくりを目指す図

<活動のポイント>
活動の“芯”を常に問い続けること。

活動がひろがり、組織が大きくなると、意見が食い違ったり、活動の方向性が見えにくくなることがあります。そんな時に大切なのは、自分たちの活動の“芯”は何なのか確認しあうこと。私たちの場合は、「自伐型林業」を通した中山間地域の活性化がミッションであり、活動の“芯”です。自分たちの“芯”を問い続けることで、ぶれずに活動できると思います。(上垣喜寛さん)

3.助成終了後の活動
~全都道府県への活動拡大を目指し、国や自治体の支援をうながす~

「『自伐型林業』への参入を支援する自治体を増やしていくことは、大きな目標の一つです。『自伐型林業』をやりたい人がどこでも誰でも始められるよう、全都道府県で1自治体は支援体制がある状況をつくりたいです。」(上垣さん)活動をさらに拡大するため、YouTubeから「自伐型林業」の情報を発信する日本唯一の林業専門番組「ZIBATSUチャンネル」の創設をはじめ、セカンドキャリアとして林業者を目指すスポーツ選手の支援など、外部との連携による新展開・新企画が進められています。また、国や自治体に対し、林業の担い手としての自伐型林業者の位置付けの明確化や、補助金による作業道づくりなどの政策提言を行うようになり、より「自伐型林業」に取り組みやすい環境づくりを図っています。
 「中山間地域を元気にするには、『自伐型林業』の普及だけでは足りません。農業や観光など他産業との連携、山間部の生活インフラの整備などができて、はじめて人が移住・定住し、地域の活性化が進みます。地域と共に生きる“生業”づくり・生活環境づくりが私たちのこれからの仕事です。」(上垣さん)
 「自伐型林業」を通じた地域おこしのフロントランナーとして、自伐協は最前線を走り続けます。

自伐協が発行する広報誌の写真
自伐協が発行する広報誌の写真

<基金担当者から>

自伐協は社会に新たなモデルや制度を生みだすための「フロントランナー助成」の最初の提供団体であり、期待されていた成果を創出できている点は素晴らしく、他団体の参考になり得ると考えています。今後も、国や自治体の政策等と連動した、さらなる活動を期待しています。(地球環境基金 中島)

活動名
新たな持続可能な環境保全型「自伐型林業」の推進基盤づくりと全国普及
助成メニュー
2015〜2019年度 フロントランナー助成
活動分野
森林保全・緑化
助成金額(千円)
(’15)8,400 (’16)8,300 (’17)9,072(’18 )9,600 (’19 )9,826
○団体情報
NPO法人 持続可能な環境共生林業を実現する自伐型林業推進協会
住所
〒105-0003 東京都港区西新橋1-4-12 新第一ビル5F
TEL
03-6869-6372
E-mail
info@zibatsu.jp
URL
https://zibatsu.jp別ウィンドウ

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