共に活動するインドネシアの中学生たちと一緒にポーズを取る
インドネシア教育振興会 代表理事 窪木靖信さん(後段中央)
自立的な環境保全体制の構築を目指し
現地との対話から始まった環境教育
世界最大の島嶼国であるインドネシア。地域経済を改善するためのインフラを絶えず構築している一方、環境に配慮する意識は十分ではありません。地域住民の中にはごみを川に捨てたり、分別をせずにごみ集積場に運んでいる人もいました。
インドネシア教育振興会では、持続可能な社会を実現するため、インドネシアの生徒・市民向けにごみの分別への理解を促進することを目的とした活動を行っています。また、リサイクルの普及により、ごみを新しい経済的資源として利用できるように推進しています。「日本人とインドネシア人が学び合いながら進めるプロジェクトで、愛を持って参加・賛同する意味合いを込めてタイトルを『学び愛インドネシア』と名付けました。インドネシアにはチンタ・リンクガン=環境を愛するという言葉があり、受け入れられやすい言葉だったのです。」(代表理事・窪木靖信さん)
インドネシアには、「ごみ銀行」という名のリサイクル・システムがあります。主にプラスチック製品・ペットボトルなどを地域のごみ銀行に持っていけば、そのリサイクル可能品の相場料金が通帳に記載され、現金で引き出しができるというもの。しかし利用者は一部に限られ、まだ十分に機能していないため、このごみ銀行のシステムと、生ごみなどから堆肥を作るコンポストについて、南タンゲラン市の中学生向けに教育を始めました。取組として南タンゲラン市の環境局と共に、補助教材とコンポスト器具を作成・配布し、環境活動を実践できる中学生の育成を行いました。
活動に当たっては、まず現地の行政やNGOと協働で環境マルチステークホルダー委員会を結成し、インドネシアの他地域や海外におけるごみの分別や再利用などの取組を調査し、中学生が自身で考え、行動するための教本を作成しました。
「南タンゲラン市の小中学校には、日本にはない教科『環境』が設置されています。この教科でごみ銀行とコンポストをピックアップした教本を使用することで、ごみを分別・リサイクルすることの大切さと、ごみが経済的な価値につながることも学んでもらうことができました。中学生が能動的に環境活動を行い、リサイクルを通じ経済について学ぶ機会が整ったのです。」(窪木さん)
環境教育の一環として、市との協働で環境理解イベント「アースデイ」やSDGsリーダー研修・合宿なども実施しました。SDGsリーダー研修は南タンゲラン市環境局のイベントに盛り込まれ、中学校で学んだ環境保全活動は南タンゲラン市・環境の日などで発表されています。
南タンゲラン市が自立的に環境教育を推進できるように、こういった活動をする中で、日本で培われた学校の授業に関するノウハウやイベントなどの行事運営技術を現地に引き継ぐことができました。現地行政の予算確保にもつながり、南タンゲラン市は環境の街として進みはじめています。
インドネシアでは、人と人とのつながりがすべて。この国で活動するには、まず信頼関係を構築する必要があります。当会の活動にあたっても、いろんな方面の人々を結びつける必要があることから、まずはプロジェクトのトップとなる南タンゲラン市環境局長に理解・納得してもらい、さまざまな方面から人材を呼び寄せ、環境マルチステークホルダー委員会を結成していきました。そして小さな成功体験を共有し、楽しく成功することを積み重ねながら理解を得て、補助教材を作りました。その結果、行政も「コンポストを作る材料費は自分たちが負担したい」というようになり、率先して予算を確保してくれるようになったのです。
活動に当たっては、現地政府や学校、生徒が主役として率先して動けるように、当会はサポート・ガイド役になるように徹しました。例えばコンポストの作り方を楽しく学んでもらうなど、教えたり質問に答えるかたちではなく、自分たちにできることを自発的に考えてもらいました。
コロナ禍において、こうした現地政府や学校などとの交渉の大部分は、オンライン会議システムやSNSを活用しました。特に中学校での教科「環境」はオンライン授業で実施され、SDGsオンライン合宿を実施するなど、あらゆるコミュニケーションの方法を活用して対話を広げていきました。行政機関や関係団体との綿密なコミュニケーションが、信頼関係の構築と現地と連携した事業の展開につながっています。(窪木さん)
「ごみ銀行とコンポストの活用と普及に焦点を当てた環境教育は、ごみの分別やリサイクルだけでなく、その経済的価値を学ぶこともでき、インドネシアの児童生徒にとって重要な位置付けの学びです。このような教育が途切れたり、地域が限定されるのはとてももったいないことです。」(窪木さん)
インドネシア教育振興会では、南タンゲラン市の中学校教科「環境」をインドネシアの環境教育のモデルとして位置付け、環境教材のデジタル化を進め、バリ島、フローレンス島の西マンガライ県、ティモール島のクパン市などインドネシアの離島にSDGsと環境教育を広げています。
また、教員同士で学び合う日本式授業研究を南タンゲラン市式としてリメイクして導入し、最低限のコストで教員の再教育を図っています。
「私たちが活動をスタートした南タンゲラン市は、環境の街としてインドネシアの最先端をいきます。私たちの活動を市も評価してくれており、独自予算で教員を離島に派遣するなどの計画が進んでいます。」(窪木さん)
現地との対話から始まった環境教育は、いま行政や多様なステークホルダーを巻き込んだ大きなうねりとして、インドネシアを変えようとしています。
新型コロナウイルス感染症の影響等、困難に直面する中でも、インドネシアにおける持続可能な環境保全体制を構築するため、着実に活動を進められてきました。行政や学校等の関係機関との信頼関係の構築を特に重視して活動されてきたことも、成果の創出につながっていると思います。今後も、これまでの成果やネットワークを活かし、インドネシア各地で自立的に環境活動を行える体制が構築・強化されていくことに期待しています。