見晴らし台のテーバルバンタから。喜界島サンゴ礁科学研究所研究員 駒越太郎さん
世界有数のサンゴ礁の保全から始まる
ひとづくり・地域づくり・未来づくり
「喜界島のサンゴ礁は、化石サンゴ礁と生きている現存サンゴ礁が織りなす、世界でも有数の自然の宝庫。このサンゴ礁を100年先まで残すのが、私たちの使命です。」喜界島サンゴ礁科学研究所の研究員・駒越太郎さんは、熱く語ります。
喜界島サンゴ礁科学研究所は、国内外のサンゴ礁の研究者と喜界島、鹿児島県の協力により2014年に設立された、日本で唯一のサンゴ礁研究に特化した研究所です。喜界島の地域文化、サンゴ礁生態系をより良い形で未来に残すために活動しています。喜界島に集まる様々な分野の研究者たちの研究成果や知見を地域づくりやひとづくりに活用し、地域住民の自然環境に対する関心の向上と、これまで専門機関等が主体となっていたサンゴ礁の保全活動を、地域住民主体の積極的な活動となるよう基盤づくりを目指してきました。
「私たちの活動は、大きく3つあります。まず島のサンゴ礁を地域のみなさんと協働して調査・観察するリーフチェック及び海洋観測。次に喜界町内の小・中・高等学校と連携したサンゴ礁をテーマとする海洋学習の実施。さらに喜界島特有のサンゴ礁文化と豊かな自然環境を地域内外の人に伝えるため、サンゴ礁の観察を行う「スノーケリングツアー」やサンゴ礁が大地に上がってできた地形と地質を体感する「ジオエコツアー」など、喜界島の価値を体感するジオ・マリンエコツアーの実施です。サンゴ礁の研究にとどまらず、自然を活かした学校教育や地域づくりまで、私たちの活動は広がっています。」(駒越さん)
活動の一つ、サンゴ礁調査リーフチェックでは、地元のダイビング事業者とともに一般のダイバーも参加できるアクティビティとしてプログラム化し、継続して実施できる体制が整いました。もともと地域住民の疑問から始まった喜界島に生息するサンゴ種の調査や、海洋モニタリングの結果も蓄積し、喜界島サンゴ図鑑の出版にもつながりました。
地域の小・中・高等学校では、総合学習の単元として「サンゴ・海洋学習」が組み込まれました。小学校ではサンゴのお世話をしてもらい、成長を観察し、学習発表会を行ったり、中学校では実際にサンゴの養殖が行われたりしています。また喜界島には、サンゴの石垣をはじめとした「サンゴ礁文化」が残されていることから、地域の保存会と連携して、石垣の修復体験などサンゴの恵みを活用した文化の学習も行いました。
「子供たちとの活動は、島の大人たちの考え方も変えていきました。大人たちにとっては島の周囲にサンゴ礁があるのは当たり前のこと。でも、子供たちや私たち研究者が目を輝かせて調査・観察するのを見て、サンゴ礁をこの島の魅力として再発見することになったのです。」(駒越さん)
さらに、ジオ・マリンエコツアーの実施では、まず初めに地域住民に喜界島のことを知ってもらうためバスツアーを開催しました。「喜界島にはこんな面白いところがある、喜界島特有の地質が見れる場所がある、そしてこの地質の上に島の暮らしや農業が成り立っているということを知ってもらいました。」(駒越さん)また、地域住民にもエコガイドを担っていただくため養成講座を開催し、多くの住民に参加していただきました。
喜界島の特徴的な自然資源の価値を地域住民の中で認識される方が年々増え、地域住民が主体となった環境保全活動につながっています。
地域の方々に自然資源の価値を再認識してもらうため、研究者自身がサンゴ礁の魅力を楽しみながら研究し、その成果を発信することを大切にしました。その結果、子供たちや地域住民が楽しんで学んでくれるようになったのです。また喜界島でアオサンゴの群生が発見されたことを伝えると、地域の人にとっても新しい発見であり、サンゴ礁がこの島の魅力であると再認識することにつながりました。
行政や学校教育では、担当になる方や先生が数年で異動になってしまうため、それまでに築き上げた関係性がリセットされてしまうことが課題でした。そこで、地域の行政・教育委員会・教育機関・研究所で「喜界島教育協議会」を設立し、サンゴ礁を通じた学習が継続的に行えるよう体制整備を進めました。
コロナ禍の影響を受ける中でも、オンラインで研究所と公民館を結んでエコガイドを育成するワークショップを行ったり、大学生が喜界島にインターンとして訪れるなど、地域を超えたつながりづくり、離れていても密な対応が、活動の推進力になったと思います。(駒越さん)
これまでの活動を通して、喜界島にはサンゴ礁を持続的に保全していくための協議会や、海洋学習を継続するための協議会、島留学生を受け入れるための協議会など、地域、行政、教育機関が連なるサンゴ礁保全のプラットフォームが整いつつあります。また、大学生以上の大人が地域づくりや保全活動に参加するプログラムを実施し、100年後に喜界島を残すために話し合う「MIRAIプロジェクト」もスタート。プロジェクトの中には、自然環境を資源としてより良い地域・未来を目指すジオパーク活動をさらに推進して、日本ジオパークへの登録を目指す活動もあります。これまでの活動に加え、行政と協力してこうした活動のサポートもしています。
喜界島サンゴ礁科学研究所の活動は、喜界島を超えて広がり始めています。「喜界島で行ってきた活動をもとに、サンゴ礁保全を一つのキーワードとして奄美群島間を結び、各地域の行政や活動団体との関係性を深め、奄美群島が環境保全・環境教育・研究の広大なプラットフォームとなることを目指しています。」(駒越さん)
サンゴ礁の保全から始まったひとづくり、地域づくりは、100年後の未来づくりへとつながっています。
地域住民が主体となるよう活動を進めたことにより、サンゴ礁保全が行政や学校、地域住民と連携した地域全体の取組に変わったと思います。また、サンゴ礁保全体制の基盤を構築・強化したことにより、継続的に保全活動が行える体制が整いました。今後も地域や関係機関とのつながりを強化し、奄美群島5島へ環境保全・教育のプラットフォームが構築されていくことに期待が高まります。