
地球環境基金便り No.48 (2020年3月発行)
小学生の頃、祖父に教えてもらったというヘラブナ釣りにはまり、以来釣り歴は30年を超え、今が釣り人生で一番充実しているという照英さん。仕事やプライベートで全国各地の水辺を見てきた照英さんに釣りの魅力、釣りを通して感じた自然への思いを伺いました。
釣りの魅力は「ゴールがない」ということです。ここ数年は仕事の関係もあって、毎週、海に出る機会がありますが、潮の満ち引き、日照時間、気温水温、潮流など同じ状況がふたつとしてありません。だから、環境や魚種に合わせて道具や装備に本当にきめ細かな調整が必要なんです。釣りのゴールの見えない奥深さが、学生時代にやっていた陸上競技と通じるところもあって、一生の趣味になるものだと思っています。
僕は魚を釣るだけでなく、釣った魚を食べるところまでが好きです。自分で釣った魚は、売っている魚にはないおいしさがある。これを味わえるのは釣り人の特権です。さらにいえば、釣りにはある意味、自然を丸ごと体験できるという感覚があります。海の上に浮いて、魚を釣る、そして、自分でさばいて食べ、仲間や家族にふるまう。こういう自然の一部になったような経験をすると、食べ物のありがたみや、自然を大切にしなくてはいけないという思いが強くなります。自分の子どもたちと一緒に釣りをするときには、彼らにも自然の大切さを伝えるようにしています。まさに自然を先生とした実体験から学べる教育ですよね。
自然に触れると植物の繊細な色だったり、季節ごとに変わる風の匂いだったり、学校では教えてもらえない感性が育っていきます。日本にはそういう自然を感じられる贅沢な環境が意外と身近にあるんです。せっかくそういう環境があるんだから、体験しないともったいない!って思っちゃいます(笑)。
過去に山口県沿岸で20kgを超える本マグロを釣り上げた経験をもつ
長年釣りを続けているので、水辺の環境の変化は気になります。テレビ番組の企画で多摩川を調べていたら、なんとグッピーなどの熱帯魚が生息していたんです。あたたかい生活排水が多摩川にたくさん流れ込んでいることが原因です。水温が上がった多摩川に家庭で飼われていた熱帯魚が捨てられて、どんどん繁殖しているんです。なかには肉食の熱帯魚や亀もいて、もともと多摩川にいた在来種が食べられて減ってしまっている。生態系が崩れてしまっているんです。こういう事態は全国的に起きていて、本来、南の方のあたたかい海にしか生息していないはずの魚が関東近海で釣れたなんて話を最近よく耳にします。
ですが、嫌な話ばかりではありません。そんななかでも地域の方々の環境保全活動が盛んに行われていて、水がきれいになり、今、多摩川には鮎が戻ってきています。高度成長期にはとても汚かった東京湾も、現在はいろんな魚が生息できるようになりました。ひと昔前だと、東京湾でとれた魚は汚いっていうイメージが残っていて敬遠されがちだったと思うんですが、今は違います。水がきれいになっているので、おいしくて安全なんです。僕自身も長年東京湾で釣りをしてきて、釣れる魚が変わってきたなって実感しています。きれいな水辺が増えれば、釣り人もうれしいですよね。
「今現在の自然を感じることが大切。自然はどんどん変わっていきます」と話す
水辺の環境問題についてはこれからも注目していきたいです。釣り人の立場からするとごみ問題が身近ですが、最近は釣り場にごみが放置されている光景はほとんど見られなくなりましたね。「釣りをこれからもずっと楽しむためにも、自分たちで水辺の環境を守っていこう」という意識をもつ釣り人が増えてきているんです。
自己満足で今がよければいいやという身勝手な発想は時代遅れ。自然環境が着々と変わっていくなかで、そこで生きている僕たちも将来の環境のことを考え、できることから行動に移していくべきだと思うんです。エコバッグを使うとか、ごみの分別とか、身近なところからでいいんです。そして、次世代の子どもたちのためにも、素晴らしい自然を残していかなくてはいけないですよね。
1974年埼玉県生まれの俳優、タレント。学生時代の陸上競技経験を活かし、スポーツ番組で活躍。明るく爽やかなキャラクターで人気を博し、バラエティー番組などに多く出演している。芸能界きっての釣り好きと知られ、2017年からはBS日テレにて放送中の釣り番組「照英・児島玲子の最強!釣りバカ対決!!」で司会を務めている。