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未来をつくる、環境教育 No.53 2022年9月発行

地球環境基金便り No.53 (2022年9月発行)

特集 未来をつくる、環境教育。

私たちも「環境教育」活動中 〜NGO・NPOの活動事例から〜

CASE.1 森で過ごす自然塾で実践型環境教育を!

代表加藤康大さん
特定非営利活動法人 いきものいんく
活動名北欧の教育農場をモデルとした放課後自然塾(仮)を開講する

野生動物に主眼を置き、小学校での環境教育授業、キャンプ学習会、放課後「いきもの塾」などを主宰。人間だけが特別な生き物でないことを自覚し、人にも自然環境にも配慮できる広い視野を持ち、自分で考え決断し行動できる子どもが増えるよう活動しています。

生きるために必要なことをみんなで学んでいます

生き物に触れながら人間と環境の在り方を考える超・実践型塾

 北海道伊達市で、子どもたちが放課後の習い事として森に集って活動する「いきもの塾」を開講しています。スウェーデンで行われている、子どもたちが放課後に農場へ行き馬の世話などをして過ごす「教育農場」をモデルにしています。学校と家までの送迎付きで、現在は、木曜教室と金曜教室を合わせて37名の子どもたちが通っています。春の生き物探しや木工、夏の田植えや馬耕、秋の稲刈り、草木染め、火山学習、冬の餅つきや雪山学習など、幅広いテーマで活動。野生生物や環境問題に関することはもちろん、農業、林業、木工、物流、経済など、これからの社会で自立して生きていくために必要なことはなんでも、みんなで学んでいきます。
 この環境教育を通じて伝えたいのは、人間が楽しく豊かに暮らすことを優先してきたために、野生動物たちの営みや自然環境に大きな影響を及ぼしているという現実を、実体験を交えて自覚することです。例えば、北海道にもともとカメは生息していません。外来種として防除の対象となっています。活動の中でカメを発見した子どもたち。捕獲した後、飼うか、殺処分するか、数十年生きるカメを飼えるのか……。考えた結果、代々引き継いで飼うことに決めました。こうした経験を通じて、種の保存法という法律があることや、人間によってこの地に持ちこまれた動物の多くが殺処分されていく現実を学びます。人間社会の営みはどうしても自然破壊を伴いますが、何も知らない、考えないのではなく、身近な自然から、感じて、考えることが大切です。ここから環境保全への意識が育まれていきます。

池でクサガメを発見し捕獲。

春の田植えは、ほとんどの子どもが初体験。この後、夏の草取り、秋の稲刈り、さらに収穫したお米を実食するところまで行います。

馬の力を借りて重い農具を引き、草地を農地にする「馬耕」。土を掘り起こした後は米ぬかなどの堆肥を混ぜ込み、畑で作物を育てます。

冬が長い北海道。雪に覆われていても動植物は生きています。川で白鳥を観察したり、森の中で木の冬芽を探したり。雪崩についても学びます。

環境教育を通じて自分で決められる力を養う

 いきものいんくの活動には「自分がすることは自分で決める・自分のことは自分でする・自分がしたことは自分で責任をとる」という3つのルールがあります。塾の子どもたちもはじめは、テーマを伝えると「何をしたらいいの?」と聞いてきますが、それを考え、自分で決めて動くことが大切であることをくり返し伝えるうちに変わります。例えば、木の看板を作る木工のプログラムでは、道具の使い方を教えてあげるだけで、立派な看板を作りあげ、さらに、端材をつなぎ合わせて創意工夫し、自分がほしいおもちゃを作って遊び始めます。頼もしいものです。
 ある日、鉱物に興味をもった子どもたちが、磁石を持って砂鉄探しに出かけたことがありました。いきもの塾で意気投合した仲間同士です。インターネットで地形を調べ、川が曲がっている場所に砂鉄が溜まっているのではないかと予想を立て、そのために必要な道具は何か相談したのだそうです。私は、彼らの行動力や好奇心を大切にしてあげたいと思いました。興味をもったら自分たちで調べ、考え、知恵を出し合う。子どもたちは、さまざまな力をもっています。自然と触れあうことで、力を養うことができるのです。いずれ、その力が環境問題だけでなくさまざまな問題を解決していく源になると考えています。

教えるのは道具の使い方だけ。
何をどうするかを考えるのは本人です。

いきものいんくの森にある畑や池に、名前をつけて、看板を作ります。国立公園の看板は景観を守るために二本足!ということで二本足の看板です。

手作りのツリーハウスと環境テキストブック

 「いきもの塾」の活動拠点となっているのがツリーハウスです。北海道産の木材にこだわり、地元の林業・製材業・建築業に関わる人たちや大工さん、子どもから大人まで15名のボランティアも加わり、みんなで作り上げました。SNSを通じてその様子を発信したり、市内10以上の小中学校に案内を出したり、2社の地元新聞社からも取材を受け、新しい環境教育の場として周知することができました。「いきもの塾」や学習会で利用するだけでなく、今後はレンタルスペースとして貸し出すことも考えています。
 また、私たちが行っている環境教育活動をまとめたテキストブックの作成も進行中です。広く地域の環境教育の底上げに役立てながら、プロジェクトの自走・継続のための収入源としても活用していく予定です。
 活動を続ける中で、私自身の意識が変わってきたことがあります。これまで環境教育の対象は子どもだけと決めていたのですが、もっと大人にも目を向けたいと思い始めました。先日、高齢者の方たちに環境問題の話をする機会があり、そこで「初めて知ることがたくさんあった」など、うれしい言葉をかけてもらったのです。大人への環境教育にも大きな可能性を感じました。じつは「いきもの塾」の対象年齢はもともと「小学1年生以上」としか定めていません。初年度には、お孫さんとおばあちゃんが一緒に通っていたこともありました。世代を問わずそれぞれの立場で考え、決断し、行動できる人が増えるよう、環境教育の門戸を広く開けておきたいと思っています。

自生する木の幹をそのまま建物の支柱に。

活動の拠点となる「ツリーハウスつみき」。生き物のすみかである、土・水・木の頭文字をとったネーミング。トイレはバイオマストイレです。

近隣の編集者とともに制作中の「テキストブック」。幅広い世代に手に取ってもらい、環境や外来種について考えてもらえるようイラストや図を多用し構成。

お話を伺った、代表の加藤康大さん(右)・
五十嵐あり沙さん(中)・瀧川彩さん(左)。

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