地球環境基金便り No.54 (2023年3月発行)
インドの西ベンガル州ビルブム県にあるマハマドバザールとラブプール地区は、乾季の約8ヶ月間、雨がほとんど降らない極度の乾燥地帯です。近年は気候変動の影響もあり雨季の降水パターンも変則的になっていて、土壌浸食や緑地減少が進行し、土地の生産性が低下しています。
また、土地を持たない日雇い農業労働者が多い地域でもあり、その割合は州内で最も高い45%にのぼります。家庭燃料としてガスボンベを購入する経済的余裕がない世帯も多く、燃料の主役は薪です。安定した食料と薪の調達、そして、子どもたちの栄養改善が求められています。
私たちは2019年から、地球環境基金の助成を受け、この2地区の30の自助グループとともに、食料、薪燃料、飼い葉(飼料)を得られる多目的樹を植える「アグロフォレストリー植林」を進めています。
彼らは土地を持っていないため、植林には、公共地の荒れ地・休閑地、道路や用水路沿い、池周り、田んぼ周り、家の周りの土地を活用しています。道路や用水路沿いなどでは、ヤギに苗木を食べられてしまったり、田んぼ周りの土地では「田んぼが影になる」と地元の人に木を抜かれてしまったりもします。それでも3年間で計28ヘクタールの土地に45種類以上の多目的樹を約4万5000本、植えることができました。亜熱帯地方なので木の生育が早く、3年あれば立派に茂り、見た目にも植林の成果を感じることができます。その様子を見て、年々、村人たちの意欲が高まっていくのが嬉しいです。
家の周りの家庭菜園に取り組んでいるのは約600世帯。セメントバッグに土を入れ、袋でも育つかぼちゃなどの野菜を作ったり、果樹の育成にも挑戦したり、食生活の改善につなげています。
このほか、薪燃料の節約と女性たちの家事時間軽減を狙い、熱効率のいい「無煙かまど」の家庭内設置も広げています。
2022年からは、新たな植林地として学校周辺の土地の活用を始めました。学校を巻き込んで活動することで、子どもたちはもちろん、保護者も一緒に環境保全に対する意識を高めていくことができます。現在4つの中学校で、植林や多目的樹について学ぶ学習セッション を進めていますが、インドでは試験がとても多く、環境教育の時間がなかなか確保できないのが、もどかしいところです。
活動当初から、アグロフォレストリー植林を支える「育苗場」「雨水保水池」「屋根雨水集積タンク」、牛糞を使い燃料と堆肥をつくる「バイオガスプラント」や「ミミズ堆肥ピット」などにも取り組んでいます。現在は「大規模ミミズ堆肥ユニット」を設置し、大量の堆肥作りに挑戦。余剰分ができればそれを販売して収入を得ることもできます。種子銀行の設置も進んでいます。
NGOはその地域にずっといるものではありません。村人たちを乗せて永遠にバスを走らせるのではなく、自ら運転できるようになり、行きたいところに行けるようになってもらうことが目標です。そのためには、アグロフォレストリー植林だけでなく、環境教育も女性の社会参加も大切です。
女性グループをはじめ、村人たちのモチベーションは高いです。植林経験者も増えてきました。広く地域住民の関心も高めていけるよう、活動をさらに発展させていきたいと思います。