地球環境基金便り No.55 (2023年9月発行)
ツーリズム市場は世界的に右肩上がりで、新型コロナウイルス感染症により一時停滞したものの、再び活況を取り戻しています。日本では、観光庁が2030年までに訪日外国人旅行者数6000万人の目標を掲げ、いまや10人に1人が観光産業に従事しているとも言われます。
そんななか問題となっているのが「観光公害」です。観光開発と環境保全のバランスが崩れたり、町のインフラなどに対してキャパオーバーな観光客が押し寄せ地域住民の暮らしに影響が出たり、さらには、利益を優先した観光商品が横行したり。町づくりと観光の在り方が問われるとともに、持続可能なツーリズムへの転換が求められています。
ヨーロッパやアジアのリゾート地では、サステナブルツーリズムのための国際認証制度が進んでいますが、残念ながら日本は遅れています。
世界規模でビジネスを展開する海外の大手旅行会社は、受け入れ先である日本の旅行会社、ツアーオペレーターにも国際基準を満たしたサステナブルなふるまいを求めるようになっています。サステナブルツーリズムの国際的な認証の普及は、日本の観光産業の成長には欠かせません。
宿泊施設や観光地に特化したものなど、認証制度にはさまざまな種類がありますが、私たちは、旅行会社やツアーオペレーターを対象とした「トラべライフ(Travelife)」の導入と普及を進めています。
日本における観光は、旅行会社への依存が大きく、地方では、不本意な料金設定や、トイレ・ごみ処理などの施設整備の負担を負うケースもみられます。旅行商品には、宿泊、飲食、交通、サービス、体験、商品など数多くのサプライチェーンが関わります。バイヤーともいえる旅行会社が地域の文化や自然資源に配慮したサステナブルツーリズムを計画し、その地域が経済的にも文化・環境資源的にも恩恵を受けられることが重要です。
そのために「環境に配慮した旅行」であることを見える化できる認証制度が役立ちます。
「トラべライフ」はオランダに本部を置く国際基準です。評価項目が多面的で、国際基準の指針とされるGSTCにも準拠しています。私たちは助成初年度に、まず全256項目ある認証基準を和訳し、旅行会社が日本語で取り組めるようにオンラインシステムを整備。並行してツーリズムEXPOなどの展示会に出展したり、研修会を開いたりしてPR活動を重ねてきました。
コロナ禍ながら2年目には4社、3年目には13社が新規加入。4年目の今年は「JARTAフォーラム」を開催し、JARTA会員によるさまざまな事例発表や意見交換をする、リアルな交流も実現できました。
この活動で難しいのは、旅行会社にとって認証取得は付加価値にはなるけれど、売上に直結しないこと。それでもこの2~3年で関心をもってくれる会社は増えました。最近は「トラべライフは健康診断のようなもの。基準に照らし合わせてみることで、自分たちの強みや弱みが見えてきますよ」と説明しています。
旅は、地域の魅力が誰かに見い出される素晴らしい機会です。人との出会いで世界が広がります。観光というツールは、地域のさまざまな課題を解決する可能性を秘めています。日本の地域が元気になるために、旅行会社ができることをこれからも続けていきたいと思います。