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いつもの行動チェンジ! No.57 2024年12月発行

地球環境基金便り No.57(2024年12月発行)

テーマも取り組みも十人十色!助成団体の活動の中から注目のテーマや取り組みをクローズアップしてご紹介します

「御嶽(うたき)」の森をきっかけに2次的自然を守り、未来へつなぐ

人の営みとともに育まれる「2次的自然」の重要性

 沖縄県八重山諸島にある竹富島は、国の重要伝統的建造物群保存地区でもある昔ながらの赤瓦と白い道の町並みや、乗り合い水牛車などで知られる、小さな島です。人口約320人の島には年間約40万人の観光客が訪れます。オーバーツーリズムの問題もありますが、その傍らで、生物多様性の保全再生、自然資産を守ることも急務となっています。
 島の産業は観光業が中心となり、生業としての農業が消滅。多くの里山と同じく、竹富島でもこれまで人の手が加わることで豊かな生物多様性を育んできましたが、いまやその「2次的自然」が失われつつあります。島の住民が「2次的自然」の重要性を認識できる機会が少ないことも、大きな課題です。
 そこで、私たちは住民の暮らしに密接した聖域祭祀にまつわる「御嶽(うたき)」の森に焦点を当て、活動を始めました。御嶽は非常に神聖な存在であり、一般の人の立ち入りを禁止しているだけでなく、祭祀以外では島民も立ち入りません。島内にある28の御嶽の維持管理は、それぞれの集落の決まった家が代々行っています。しかし、住民の3分の1が70歳以上となり、過疎化、少子化も進み、その手入れが継承されていません。御嶽はこれまで、文化財や民俗学的な調査はされてきましたが、御嶽の森の植生調査や生物多様性については行われてきませんでした。

財団が管理する「旧与那国家住宅」地面をきれいに保つのはマラリアを防ぐ古からの知恵

「静謐(せいひつ)」と「鬱蒼(うっそう)」では大違い
御嶽の森は手入れ次第

 活動のきっかけは、とある御嶽の森に驚いたことでした。以前より御嶽のひとつの管理を任され、自分なりに手入れを続けていましたが、島のおじいが手入れするその御嶽は、空気が全く違ったのです。閑静で静謐な暗がりと、清らかな風通し……これが本当の御嶽だと思いました。その姿をほかの御嶽にも取り戻したいのですが、どれが有用樹なのか、枝一本切るのも大変難しく、どう手入れすべきかわからなかったのです。
 御嶽にまつわる伝承が基本的に口伝(くでん)であること、昔から隣の集落の御嶽に出入りしないこと。さらに、島に高校がないため15歳になると島を出てしまうことなどから高齢化が進み、多くの御嶽で伝承が途切れてしまいつつありました。
 そこで、私たちは、おじい・おばあたちからの聞きとりや過去の文献研究を行い、同時に、学術的な実地調査を始めました。大学の教授らと、御嶽の森にある直径15㎝以上の220本の樹を調査。島の固有種の見極めや絶滅危惧の樹種の確認などを進めています。また、御嶽の森など聖域祭祀にまつわる2次的自然の保全管理は、島の在来の生物多様性の保全にも貢献することから、環境省「自然共生サイト」の認定申請準備も進行中です。

御嶽は島民にとってとても神聖な場所
手入れの伝承が途絶えた御嶽の森ではツルが樹を絞め殺してしまう

昔ながらの「農」のある暮らしを取り戻したい

 御嶽では今も年間17もの祭祀が執り行われています。国の重要無形文化財の「種子取祭」をはじめ、すべてが「農」に関わる祭祀です。それなのに島内の農地は活用されず作物を育てる人もいないため、いまや祭祀に使う穀物でさえ近隣の島から取り寄せています。古来の風習・文化・景観が息づいていることが島の魅力でありながら、その土台である、人の営みが失われているのです。
 私たちの目標は、御嶽の森の周辺に島の伝統作物である粟、麦、タカキビなどの畑が広がることです。昔ながらの農のある暮らしが戻ることで、島の生物多様性も守れます。100年後も竹富島が今のままであるために、島民の心のよりどころである「御嶽」を起点に、自然資産を守り、次の世代へつなげたい。伝承と検証を大切に、活動を続けていきます。

竹富島は珊瑚礁が隆起した島 珊瑚の砂の浜は白くて美しい
かつては家の基礎にも珊瑚を活用

「地域自然資産法」って知ってる?

地域自然資産法とは

自然環境保全地域への入域料やトラスト活動(地域住民が土地を買い取るなど)に関する法律で、2014年に制定されました。都道府県や市町村が中心となり、多様な関係者と協議し、自然環境の保全および持続可能な利用の推進に関する「地域計画」を作成し、入域料や寄付金の取得を行える法律です。

300円の入島料は貴重な活動資金!

石垣島と竹富島のフェリーターミナルに券売機を設置。「入島料の認知が広がらないのが課題」と水野さん。“うつぐみ”とは協力の意味です。

今回お話を伺ったのはこの団体


一般財団法人
竹富島地域自然資産財団
活動名竹富島の聖域祭祀にまつわる
「御嶽」などの2次的自然の保全活動
団体の設立年2019年
本活動の開始年2024年
地球環境基金の助成年数1年目
昭和30年代から続く「小さな島の大地を生かしたい」という島民の思いを礎に、島の暮らしと観光の共存、自然環境保全に取り組んでいます。
かつては家の基礎にも珊瑚を活用

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