実践編ぜん息をコントロールする
成人ぜん息の治療、治療の全体図
治療の進歩にともない、ぜん息は、適切な治療と自己管理を継続することで、症状なく健康な人と変わらない生活を送ることができる病気になりました。
ここがポイント!
- ぜん息治療の目標は「健康な人と変わらない生活を送ること」です。
- ぜん息治療では、重症度に応じて使う薬の量や種類を決定します。
- 治療と自己管理を継続して症状が改善すれば、薬の量や種類を減らすことができます。
- ぜん息が改善しない場合には、まず自分の治療への取り組みを見直すことが大切です。
ぜん息治療の目標
日本アレルギー学会の「喘息予防・管理ガイドライン」では、成人ぜん息の治療目標を以下のように掲げています。
ぜん息の管理目標
健康な人と変わらない日常生活を送ること
そのためには…
ことが必要です。
その結果…
- 呼吸機能の低下を抑える
- ぜん息死を避ける
- 治療薬の副作用の発現を避ける
ことができます。
- (喘息予防・管理ガイドライン2018を一部改変)
成人ぜん息の大部分は、薬を適切に使うとともに、自己管理をしっかり行えば、この目標を達成できる時代になっています。つまり、ぜん息は自分でコントロールすることができる病気です。逆に、薬を不適切に使ったり自己管理を怠ったりすると、重症化する一方となり、最悪の場合、激しい発作でぜん息死も招きます。
ぜん息の症状が出ないよう、適切な薬物療法と自己管理を継続することを「ぜん息をコントロールする」といい、症状がまったく出ない状態を「コントロール良好」といいます。
多くの患者さんは、自分の一番苦しかったときを基準に今の状態を評価するため、症状があるにもかかわらず、“あのときよりはよい状態にある”と思ってしまいがちです。しかし、「コントロール良好」とは、以下のような状態を指します。
ぜん息のコントロール状態の評価
-
- ぜん息症状
(日中および夜間)
- 発作治療薬の使用
- 運動を含む活動制限
- 呼吸機能
(FEV1注1およびPEF注2)
- PEFの日(週)内変動
- 増悪(予定外受診、救急受診、入院)
-
- コントロール良好
(すべての項目が該当)
-
- ぜん息症状
(日中および夜間)
- なし
-
- 発作治療薬の使用
- なし
-
- 運動を含む活動制限
- なし
-
- 呼吸機能
(FEV1注1およびPEF注2)
- 予測値あるいは自己最良値の80%以上
-
- PEFの日(週)内変動
- 20%未満注3
-
- 増悪(予定外受診、救急受診、入院)
- なし
-
- コントロール不十分
(いずれかの項目が該当)
-
- ぜん息症状
(日中および夜間)
- 週1回以上
-
- 発作治療薬の使用
- 週1回以上
-
- 運動を含む活動制限
- あり
-
- 呼吸機能
(FEV1注1およびPEF注2)
- 予測値あるいは自己最良値の80%未満
-
- PEFの日(週)内変動
- 20%以上
-
- 増悪(予定外受診、救急受診、入院)
- 年に1回以上
-
- コントロール不良
- コントロール不十分の項目が3つ以上当てはまる
-
- 増悪(予定外受診、救急受診、入院)
- 月に1回以上注4
- (喘息予防・管理ガイドライン2018)
- 注1:呼吸機能検査でわかる「1秒量」のこと。
- 注2:ピークフロー値。
- 注3:1日2回測定による日内変動の正常上限は8%である。
- 注4:増悪が月に1回以上あればほかの項目が該当しなくてもコントロール不良と評価する。
ぜん息の治療目標を改めて確認し、お医者さんと共有しながら、コントロール良好を目指して治療を続けていきましょう。
ぜん息の重症度
ぜん息の治療は、重症度に応じて使う薬の種類や量が異なります。重症度は呼吸機能(ピークフロー値と1秒量)とぜん息の症状によって軽症間欠型、軽症持続型、中等症持続型、重症持続型の4つのいずれかに判定されます。ここで判定に際して大切なのはどのくらいの頻度で症状や発作が起こるのかという点です。正しい診断、重症度判定のために、自分の症状を医師に詳細に伝えましょう。
ぜん息は、まだ治療を受けていない患者さんと、すでに治療を続けている患者さんとで、重症度の判定方法が異なります。
治療を受けていない患者さんの重症度分類
いずれかひとつが認められれば、その重症度と判断されます。
-
- 重症度
- ぜん息症状の特徴
- PEF注1
FEV1注2
-
- 分類項目
- 頻度
- 強度
- 夜間症状
- %FEV1、%PEF
- 変動
-
- 軽症間欠型
-
- ぜん息症状の特徴
-
- 頻度
- 週1回未満
-
- 強度
- 症状は軽度で短い
- -
-
- 夜間症状
- 月に2回未満
-
- PEF注1 FEV1注2
-
- %FEV1、%PEF
- 80%以上
-
- 変動
- 20%未満
-
- 軽症持続型
-
- ぜん息症状の特徴
-
- 頻度
- 週1回以上だが毎日ではない
-
- 強度
- 月1回以上日常生活や睡眠が妨げられる
- -
-
- 夜間症状
- 月に2回以上
-
- PEF注1 FEV1注2
-
- %FEV1、%PEF
- 80%以上
-
- 変動
- 20~30%
-
- 中等症持続型
-
- ぜん息症状の特徴
-
- 頻度
- 毎日
-
- 強度
- 週1回以上日常生活や睡眠が妨げられる
- しばしば増悪
-
- 夜間症状
- 週1回以上
-
- PEF注1 FEV1注2
-
- %FEV1、%PEF
- 60%以上80%未満
-
- 変動
- 30%を超える
-
- 重症持続型
-
- ぜん息症状の特徴
-
- 頻度
- 毎日
-
- 強度
- 日常生活に制限
- しばしば増悪
-
- 夜間症状
- しばしば
-
- PEF注1 FEV1注2
-
- %FEV1、%PEF
- 60%未満
-
- 変動
- 30%を超える
- (喘息予防・管理ガイドライン2018)
-
- 注1:PEF
-
ピークフローメーターを使って測定したピークフロー値のこと。
%PEF=(PEF測定値/PEF予測値または自己最良値)×100
-
- 注2:FEV1
-
病院で行われる呼吸機能検査で測定できる「1秒量」という値のこと。息を思い切り吐き出したとき、最初の1秒間に吐き出される息の量です。
%FEV1=(FEV1測定値/FEV1予測値)×100
重症度が判定されたら、重症度に応じた「治療ステップ」の治療が行われます。
すでに長期管理薬の治療を続けている患者さんの重症度分類
すでに治療を受けている患者さんの場合は、治療を受けていてもなお認められる症状から重症度を判定します。これを、治療を加味した「真の重症度」と呼びます。
たとえば、まったく症状がない場合でも、治療ステップ3の治療を行ったうえで症状がないのであれば、真の重症度は「中等症持続型」ということになり、まだ治療を継続する必要があるということになります。
症状と治療ステップから判定する「真の重症度」
※下記の表は横へスクロール(スワイプ)して内容をご確認ください。
- (喘息予防・管理ガイドライン2018)
- 注1:コントロールされた状態(症状がない状態)が3~6か月以上維持されていれば、治療のステップダウンを考慮する
- 注2:各治療ステップにおける治療内容を強化する
- 注3:治療のアドヒアランスを確認し、必要に応じ是正して治療をステップアップする
該当するステップの治療を行い、症状が出ない状態が3~6か月持続すれば、薬の種類や量を減らし、治療をひとつ下のステップにする(ステップダウンする)ことができます。医師の指示通りに治療を続け、ステップ1の治療で症状が出ない状態を継続することができれば、薬を中止できる場合もあります。
治療効果の判定と治療ステップの見直し
ぜん息治療の目標は、必要最小限の薬を使ってぜん息を「コントロール良好な状態」、すなわち症状がなく健康な人と同じように生活できる状態を目指すことです。
重症度に合わせた治療を継続しても、症状が改善せずにぜん息をコントロールできない場合、薬の量や種類を増やします(治療をステップアップする)が、その前に医師が診断を見直したり、患者さん自身が治療を適切に継続できているかを確認したりすることが重要とされています。以下に沿って、自分の治療への取り組みを見直してみましょう。
- 1.医師の指示通りに、薬の吸入や服薬を続けていますか
- ぜん息は慢性の病気です。自分勝手に薬を止めてしまわずに継続することが重要です。
- 2.吸入薬を正しく吸入できていますか
- 吸入薬はぜん息治療においてとても重要な薬剤です。吸入薬は、正しい手順で吸入することによって、はじめて本来の効果を発揮します。自己流になっていないか、きちんと薬を吸入できているか、定期的に医師や薬剤師にチェックしてもらいましょう。
関連リンク正しい吸入方法を身につけよう
- 3.ぜん息の悪化因子への対策をしていますか
- ぜん息を悪化させる原因は人によってさまざまです。自分に合わせた悪化因子への対策をしましょう。
- 4.合併症がある場合、きちんと治療をしていますか
- ぜん息と合併することにより、ぜん息に悪影響を及ぼす病気があります。治療を継続してもなかなかよくならない場合、合併症がないか医師に診断してもらうことも大切です。合併症がある場合には、きちんと治療を受けましょう。
関連リンクぜん息との合併に気をつけたい病気
上記をすべて見直しても症状が改善しない場合、医師は治療のステップアップを考慮します。
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