知識編ぜん息を知る
ぜん息とは
成人ぜん息の患者数は増加傾向にあり、医師により診断され、治療中もしくは症状のあるぜん息患者さん(ぜん息の有病率)は、20~45歳成人の約5~9%程度であることが判明しています(下表参照)。ぜん息で亡くなる人の数は減少傾向にありますが、その多くは65歳以上の高齢者です。
<成人(20~45歳)におけるぜん息の頻度>
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- ぜん鳴を有する頻度(=有症率)
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- 2006年 郵送/訪問全国調査 注1
- 9.3%
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- 2010年 Web会員6万人全国調査 注2
- 12.3%
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- 2012年 Web会員8万人全国調査 注3
- 13.9%
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- 医師により診断され、治療中もしくは症状のあるぜん息(=有病率)
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- 2006年 郵送/訪問全国調査 注1
- 5.3%
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- 2010年 Web会員6万人全国調査 注2
- 7.7%
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- 2012年 Web会員8万人全国調査 注3
- 8.9%
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- 出典
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注1:Fukutomi Y, Nakamura H, Taniguchi M, et al. Int Arch Allergy Immunol. 2010;153(3):280-7.
注2:厚生労働科学研究 赤澤班報告書
注3:環境再生保全機構研究 谷口班報告書
ここがポイント!
- ぜん息は気道の慢性的な炎症が原因で、せきやたん、ぜん息発作などの症状が起こる病気です。
- ぜん息の発症には、個体因子と環境因子が関係しています。
- 成人ぜん息には、非アトピー型が多い、なかなかよくならないなどの特徴があります。
ぜん息のメカニズム
ぜん息の人の気道には、アレルギーなどが原因となって、慢性的に炎症が起こっています。そのため、少しの刺激でも気道が過敏に反応し、せきやたんの症状や、呼吸困難をともなうぜん息発作(気道の狭窄:気道がせまくなる状態)が起こります。
ぜん息の特徴的な症状
- おもに夜間や早朝に息苦しくなる、せきが止まらなくなる
- 呼吸のたびにゼーゼーヒューヒューという音がする(ぜん鳴)
- 運動したり冷気や煙にあたると息苦しさやせきが出る
アレルギーのメカニズム
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- 1.アレルゲンが体内に侵入する
- アレルギーの原因となる物質をアレルゲンという。ダニ、ホコリ(ハウスダスト)、花粉、食物などさま
ざまなものがアレルゲンとなる
- ぜん息の場合、主にダニやハウスダストなどがアレルゲンとなる
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- 2.アレルゲンが異物として認識される
- 体内に侵入したアレルゲンは、樹状細胞注1にとらえられ異物として認識される
- 樹状細胞は、その情報をヘルパーT細胞注1に伝える
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- 3.IgE抗体が大量に放出される
- 情報を受けたヘルパーT細胞は、B細胞注1を刺激し活性化させる
- 活性化したB細胞はIgE抗体(たんぱく質の一種)を大量につくり、放出する
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- 4.アレルギー反応が起こる準備ができる
- B細胞から放出されたIgE抗体は、マスト細胞注1の表面にくっつき、次にアレルゲンが侵入し、結合するのを待つ。この状態を感作(かんさ)という
- アレルゲンごとに、そのアレルゲンだけに結合する特異的IgE抗体がある。たとえばダニ(に含まれるたんぱく質)と結合するのは「ダニ特異的IgE抗体」となる
- 感作の段階では、アレルギー反応が起こる準備ができただけで、症状は出ない
-
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- 6.炎症を引き起こす物質が放出される
- 侵入したアレルゲンは、マスト細胞の表面にくっついているIgE抗体と結合する
- アレルゲンとIgE抗体が結合すると、マスト細胞を活性化させる。それによりマスト細胞は、溜め込んでいた炎症性物質(ヒスタミンやロイコトリエンなど)を放出する
- ※炎症性物質は、ヘルパーT細胞により活性化された好酸球注1からも放出される
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- 注1:樹状細胞、ヘルパーT細胞、B細胞、マスト細胞、好酸球は、いずれも白血球の一種です。白血球は、リンパ組織や血管に入り込み、全身に存在し、体内へ侵入してくる病原菌や異物、および自分の体内で発生した異物(がん細胞など)を取り除きます。アレルギーは、この免疫の仕組みが過剰に働いてしまった結果といえます。
ぜん息の発症要因
ぜん息は、個体因子と環境因子が複雑に絡み合って発症するとされています。
個体因子
- 遺伝子素因
- 両親にぜん息があるときの、子どもの発症リスクは3~5倍程度高くなるとされています。
- アトピー素因
- 環境中のアレルゲンに対して、IgE抗体注1をつくりやすい体質のこと。血液中のIgE抗体値が高いと、ぜん息の有病率が増加するとされています。
- 気道過敏性
- 気道がさまざまな刺激に過敏になることは、ぜん息発症の危険因子です。
- 性差
- 小児では女児よりも男児にぜん息が多くみられます。成人では女性の有病率が高くなります。
- 出生時体重や肥満
- BMI注2が高いほどぜん息発症のリスクが高いとされています。
- 注1:ぜん息をはじめとするアレルギー疾患の発症に深く関わっているタンパク質。
- 注2:体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))で計算できる肥満度の指標。BMI25以上で肥満と判定される。
環境因子
- 喫煙
- アレルゲン
- 呼吸器感染症
- 大気汚染
- 食物
- 鼻炎
成人ぜん息の特徴
非アトピー型が多い
小児ぜん息では9割以上にアレルギーの関与が認められますが(アトピー型ぜん息)、成人ぜん息では、アレルゲンを発見できるのは6割程度 。残りの4割はアレルゲンを発見できない「非アトピー型ぜん息」です。
成人になってから初めて発症するケースが多い
小児ぜん息の持ち越しや、小児ぜん息がいったん治癒または寛解(長期間、無症状で無治療の状態)した後、大人になって再び発症することもありますが、中高齢でのぜん息の70~80%以上が、成人後に発症しています。注
- 注:福冨友馬ら 本邦における病院通院成人喘息患者の実態調査、アレルギー56、2010より引用
なかなかよくならない
ぜん息は、高血圧症や糖尿病と同じように慢性疾患(長期にわたって付き合っていく必要がある病気)です。とくに成人ぜん息は、非アトピー型が多いことやぜん息悪化の要因が小児よりも多いため、ほぼ治らないといわれています。また、気管支の「リモデリング」が起こりやすいことも大きな要因です。
リモデリング
ぜん息治療の中断や放置などで炎症が長期に続くことで気道の線維化が進んで硬くなり、気道がせまい状態のまま、もとに戻らなくなること。治療しても治りにくくなったり、重症化を招いたりする要因です。
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