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治療

そのほかの治療法

近年、体に免疫力をつけてぜん息の原因となるアレルギー反応を起こしにくくする「アレルゲン免疫療法」や、重症ぜん息に対する新しい治療法が登場しています。

ここがポイント!

  • 「ダニアレルゲン免疫療法」は症状を抑える対症療法ではなく、ダニアレルギーによるぜん息の根本的な治療法です。
  • 重症ぜん息患者さんに対する、抗IgE抗体、抗IL-5抗体を使った治療や、気管支サーモプラスティといった、新しい治療法が登場しています。

ダニアレルゲン免疫療法

免疫療法とは

皮下免疫療法

これまでのぜん息治療は、薬を使い現れている症状を抑える治療(対症療法)が主でした。しかし、対症療法ではぜん息を根本から「治す」ことはできません。これに対してアレルゲン免疫療法は、体のアレルゲンに対する反応(免疫反応)を変えることで、体に免疫力をつけてアレルギー反応を引き起こしにくくする治療法です。

舌下免疫療法

免疫療法には、アレルゲンを皮下に注射する「皮下免疫療法」と、舌の下にアレルゲンエキスをたらす、もしくは錠剤を入れる「舌下免疫療法」の2種類があります。

ダニアレルゲン免疫療法の方法

ダニアレルゲン免疫療法は、ダニがアレルゲン(アレルギーの原因)となってぜん息を発症している患者さんに、ダニエキスを注射で投与し、体のダニアレルゲンに対する反応を変化させ、体質改善の面からぜん息を治療していく方法です。ただし、治療には長い年月がかかり、すぐに効果が現れるわけではありません。ダニアレルゲン免疫療法を受ける際には、さまざまな条件や注意点があります。医師とよく相談のうえ治療に臨みましょう。
※現在のところ、ぜん息に対するダニアレルゲン免疫療法は、皮下免疫療法のみが保険適用となっています。

対象
  • ぜん息の主な原因がダニアレルギーの、軽症から中等症のぜん息患者さん
  • 5歳以上
方法
  1. 1.ぜん息の原因アレルゲンがダニであることを検査で確かめる。
  2. 2.医療機関に通院しながら、注射でダニアレルゲンエキスを投与する。
治療期間
ダニエキスの濃度を徐々に高くしながら、週1~2回、20回程度投与(標準法)。数日間入院して行う急速法もあります。
効果の現れるダニエキスの濃度である「維持量」に到達してから、3~5年、4週間に1回投与。
副作用
  • 注射した部位がはれる、せき、じんま疹など。
  • 日本では、高い濃度のダニエキスを投与した場合、2~10%でアナフィラキシーを含む何らかの全身反応が見られている。
注意点
  • すべての患者さんに効果がみられるわけではありません。
    ダニだけでなく花粉や犬、猫、カビなど複数のアレルギーがある患者さん、重症のぜん息患者さん、喫煙しているぜん息患者さんは効果があまり期待できず、副作用でぜん息発作が起こる危険性も高まります。
  • すぐに効果が現れる治療法ではありません。
  • ぜん息が重症であったり、不安定な(症状が多い)方は受けられません。
  • 治療は、ぜん息の症状が落ち着いている安定期に開始します。
  • ぜん息発作が起こったり、カゼをひいているとき、体調が悪いときには受けられません。
  • 吸入ステロイド薬などの薬物療法と並行して行います。維持量まで到達すると、徐々にぜん息の薬を減らせる可能性があります。
  • ダニが多い環境では副作用が出やすくなったり、効果が現れにくいため、掃除などの環境整備も継続して行いましょう。
  1. 注:アナフィラキシー
    アレルゲンを吸い込んだり、食べたりした後、きわめて短時間のうちに全身性に複数の臓器(皮膚、粘膜、呼吸器、消化器、循環器など)にアレルギー症状が出る反応。血圧低下や意識障害を伴う場合、アナフィラキシーショックと呼ぶ。
【補足】
  • ダニがアレルゲンとなってアレルギー性鼻炎を起こしている患者さんの場合、舌の下にダニエキスをたらす、もしくは錠剤を入れる舌下免疫療法を保険適用で受けることができます。
  • スギ花粉症に対するアレルゲン免疫療法もあります。皮下免疫療法(5歳以上)、舌下免疫療法(花粉エキスによる治療は12歳以上、錠剤による治療は年齢の下限なし)ともに保険適用です。

そのほかの治療

高用量の吸入ステロイド薬や複数の薬剤を併用しても症状が安定しない、重症のぜん息患者さんを対象とした新しい治療法が登場しています。

抗IgE抗体(オマリズマブ製剤 商品名:ゾレア®)

アレルギーが原因となって起こるぜん息の場合、体の中でアレルゲンに対するIgE抗体というタンパク質が大量につくられます。アレルゲンと結合したIgE抗体がマスト細胞にくっつくと、マスト細胞からヒスタミンなどが放出され、アレルギー反応(炎症)が起こります。
抗IgE抗体には、IgE抗体がマスト細胞にくっつくのをブロックする働きがあります。その結果、アレルギー反応(炎症)を食い止めることで、ぜん息の症状が改善し発作を減らすことにつながります。
ハウスダストなどの吸入アレルゲンに対する特異的IgE抗体を持っていて、総IgE値が30~1500IU/mLの範囲にある場合に対象となります。

方法:
体重や血液中のIgE抗体の量に合わせ、2週間または4週間に1回、抗IgE抗体製剤を注射します。

抗IL-5抗体(メポリズマブ製剤 商品名:ヌーカラ®)

ぜん息を重症化させるひとつの要因として、血液中の「好酸球」が関係しています。好酸球の働きを活性化させるのが、IL-5(インターロイキン-ファイブ)という物質です。
抗IL-5抗体には、IL-5の働きを抑えて、炎症を引き起こす好酸球を減らす作用があります。気道に集まる好酸球が減少することで、ぜん息の症状が改善し発作を減らすことにつながります。
血液中の好酸球数が多い方が効果が高いため、過去1年以内に好酸球数が300/μl以上のことがあった、もしくは、現在150/μl以上の場合に注射がすすめられています。

方法:
4週間に1回、抗IL-5抗体製剤を皮下に注射します。
    • 図 抗IL-5抗体投与前の状態では、IL-5が好酸球と結合
    • 好酸球の働きを活性化
    • 炎症
    • ぜん息の重症化
    • 抗IL-5抗体を投与すると・・・
    • 図 抗IL-5抗体が、IL-5の働きを抑える
    • 好酸球を減らす
    • 炎症を抑える

抗IL-5受容体抗体(ベンラリズマブ製剤 商品名:ファセンラ®)

好酸球を活性化させるIL-5が、好酸球の表面にあるIL-5受容体にくっつくのを妨げる薬です。さらに、ADCC活性(抗体依存性細胞傷害)で直接好酸球を除去します。これによって、ぜん息の症状を改善させて発作を減らします。
血液中の好酸球が高いほうが効果が高いとされています。

方法:
初回、4週後、8週後に皮下に注射し、以降、8週間隔で皮下に注射します。

気管支サーモプラスティ(BT:Bronchial thermoplasty)

複数のぜん息治療薬を使用しても症状が改善しない、18歳以上の重症ぜん息患者さんを対象とした、手術による非薬物療法です。麻酔をして気管支の中に内視鏡を入れ、先端に付いた電極で気管支の内側を65度に温めます。気管支を温めることで筋肉が薄くなり、気管支がせまくなりにくくなります。その結果、ぜん息の症状が改善し、発作や救急外来受診の回数が減少するとされています。

方法:
合計3回の治療を、3週間以上の間隔をあけて行います。毎回、入院での治療になります。
【補足】
  • いずれの治療法も、医療費が高額になります。医療費控除や高額療養費制度などを利用することで、自己負担額を減らすことができます。
  • 新しい治療法であるため、治療をする期間や、長期の有効性、安全性に関してはまだデータが不十分です。医師とよく相談して治療に臨みましょう。

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