中学生、高校生の皆さんは、毎日の学校生活や部活動、習い事や塾通いなどで忙しい毎日を送っているでしょう。
このような忙しい毎日の中で、ぜん息の治療や自己管理は後回しになっているかもしれません。しかし、環境の変化などでぜん息が悪化してしまうことがよくあります。さらに思春期は、大人になるまでぜん息を引きずってしまうかどうかの分かれ道ともいえる時期です。とくに女子は、思春期のぜん息が男子に比べて治りにくく、大人になるまで引きずってしまう確率が高いとされています。大人になるまでぜん息を引きずらないためには、今、ぜん息の状態をよくしておくことがとても大切です。
ぜん息の症状は、気道の炎症が原因で起こります。炎症が起きている気道は、少しの刺激にも敏感なので、ほこりや煙、冷たい空気などを吸い込むと、せきやたん、発作などが現れます。
この気道の炎症を抑えるのが「長期管理薬」です。そのひとつである「吸入ステロイド薬」が広まってから、ぜん息で入院する患者さん、亡くなる患者さんが大幅に減りました。
ただし、長期管理薬は長期間使ってはじめて本当の効果が現れる薬です。使い始めてしばらくすると症状がおさまりますが、ぜん息が治ったわけではありません。気道の中の炎症は続いています。症状がおさまってからも、途中でやめないで、医師の指示通り使い続けることが大切です。
ぜん息発作が起こったときに使う薬が「発作治療薬(短時間作用性β2刺激薬)」です。気管支を広げる働きがあり、すぐに効き目が現れます。
この「すぐに効き目が現れる」ことが危険ポイントです。すぐに楽になるので、ぜん息患者さんは発作治療薬だけに頼る傾向があります。しかし、長期管理薬をまったく使わずに発作治療薬だけを使っていると、気道の炎症がどんどん悪化し、ぜん息死の危険が高まります。
さらに、発作治療薬は使いすぎると効きにくくなるという特徴があります。また、「いつでも発作治療薬を使えばいい」と考えていると、病院受診のタイミングが遅れることもあります。いざ大きな発作が起こったときに発作治療薬が十分効かず、病院を受診するのも遅れ、命の危険にさらされるおそれがあるのです。
ぜん息はカゼとは違い、症状が出なくなったから治った、という病気ではありません。症状がなくても、気道の中は炎症が続いています。
そこで、定期的に受診して医師に今の自分の状態を評価してもらうことがとても大切です。医師は、変わりなく調子のいい状態が続いているのかどうか、部活の試合や受験、旅行などで負担が大きくなりそうか、などを考慮して薬の量や種類を検討してくれます。そのためには、あなたの情報が必要です。自分の口から状態を伝え、医師と一緒にぜん息をよくしていく、という意識を持つようにしましょう。
受診のときは、自分の症状や医師に聞きたいことをメモして持参すると、スムーズに話ができます。
一般的に、小児科は中学生まで、高校生から内科といわれています。しかし、厳密な決まりはなく、主治医の先生が診てくれるのであれば、高校生以降も小児科でも問題ありません。
高校生になってそろそろ小児科がはずかしくなってきた、転居や進学、就職などで今まで通っていた小児科に通えなくなった、というタイミングで、内科へ移行する方も多いようです。
内科に移るときは、これまでかかっていた小児科の先生と相談して、紹介状を書いてもらうといいでしょう。これまで使っていた薬、病気の状態も説明できるようまとめておくと、その後の診療に役立ちます。
ぜん息の治療は、小児科と内科で大きな違いはありませんが、内科では使える薬の種類が多くなったり、体格に合わせて薬の量も変わってきます。さらに、ぜん息以外の病気(ぜん息の合併症や生活習慣病など)が出てきたときは、やはり大人の病気を専門に診ている内科のほうが、トータルに診療してもらえるというメリットもあります。
喫煙は呼吸機能を低下させ、ぜん息を悪化させます。さらに、喫煙によって吸入ステロイド薬の効きが悪くなることがわかっています。また、加熱式たばこにも有害な物質が含まれていることがわかっています。ぜん息の有無にかかわらず、喫煙は体に様々な悪影響を及ぼします。絶対に喫煙しないようにしましょう。
他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙も、自分が喫煙するのと同じくらいぜん息に悪影響を及ぼします。喫煙所には近づかないなどの配慮が必要です。
なお、満20歳未満の方の喫煙は法律で禁止されています。
学校生活では、体育の授業や行事、掃除当番などが、ぜん息発作の原因になることがあります。とくに体育の授業、マラソン大会などでは、運動誘発ぜん息に注意が必要です。ふだんは症状がなくても、体育やマラソンのときだけ苦しくなる場合もあります。適切な治療薬で楽に運動できるようになる可能性がありますので、医師に相談しましょう。
また、学校内での薬の使用などについて、先生方に気を配ってもらう必要もあります。現在は、主治医、保護者、学校の先生方が生徒のぜん息の様子を共有するためにつくられた「学校生活管理指導表」が活用されています。安心して学校生活を送れるよう、入学、進学の際には必ず提出して先生方と相談の機会を持ち、ぜん息のことを理解してもらうと同時に、協力を求めましょう。
ぜん息患者さんは、自分のぜん息の原因(アレルゲン)や、発作の要因になりやすいものがたくさんある職場で働く場合、ぜん息発作が起こりやすくなったり、ぜん息が重症化しやすくなったりします。とくに、煙や粉じんなどが舞う職場では注意が必要です。もし、職業を選択する際に不安を感じることがあったら、医師や看護師に相談してみましょう。
ぜん息の調子が悪いときには無理をせずに休むことも必要です。無理をして休まずに朝から晩まで仕事をし、大発作を起こして病院に救急搬送される例も少なくありません。また、長期管理薬を使わずに発作治療薬だけでしのぎ、ぜん息の調子が悪くなっても病院を受診しない、という方も多いようです。しかし、ぜん息をきちんと管理せずに大発作を起こし入院が必要になると、長期間仕事を休むことになり、かえって周囲の人たちに迷惑をかけてしまいます。
ふだんから長期管理薬をきちんと使い、気道の炎症を抑えておくことが、ぜん息治療の基本です。そして、調子の悪いときは無理せずに休むこと。ぜん息に対する職場の人たちの理解を得ておくことも必要です。
ぜん息治療の目標は、適切な治療と自己管理で健康な人と変わらない日常生活を送ることができるようになることです。ぜん息を適切にコントロールすることができれば、症状なくどんなスポーツでもすることができます。実際に、ぜん息があっても活躍しているプロスポーツ選手がたくさんいます。ドーピングの対象にならないぜん息の治療薬や事前に申請することで使用できる治療薬がありますので、競技に参加する方は、医師に相談しましょう。