地球環境基金便り No.47 (2019年9月発行)
特集森林(もり)をつくる、
人をつくる
積雪量の多い利賀村で、冬に活躍する手ゾリ
南砺市(なんとし)利賀村(とがむら)は標高700〜1000メートルと、人が定住する場所としては富山県で最も標高が高い地域です。村の森林率は97%。クマタカが繁殖するなど生物多様性が豊かで、村には今なお森に寄り添った暮らしの文化も残っています。しかし過疎化は深刻で、2004年の町村合併以降わずか10年で人口が半減。森林資源を利用しつつ、持続可能な地域社会を構築するためにはどうすればいいのか。山村の行く末を、山村に住む人自らが考えて決めるために、当団体を設立しました。
お話を伺った、理事の江尻 裕さん
私たちは現代のスギ人工林からの建築用材生産を主とした画一的な林業に疑問をもっています。利賀村は積雪3メートルを超える豪雪地帯で、植林したスギも雪の重みで幹が曲がるなど建築材としては形質が悪く、収益性の低さが課題です。一方、植林地以外のエリアにはブナなどの多様な広葉樹が混交する二次林が再生しつつあり、地域の特性に応じた林業のかたちを新しく構築する必要があります。
そこで私たちが目指しているのが「環境林業」です。環境林業とは、地域の森林の特性に応じて森林生態系の保全をしつつ、森林資源を持続的に利用して山村の暮らしを支えていくことです。利賀村の場合、スギ林は間伐を継続し燃料用として地域利用を進め、広葉樹の二次林はさまざまな需要先を掘り起こし、必要なものを逐次伐採するしくみづくりをしたいと考えています。
当団体では毎年「TOGA森の暮らし塾」を開催しています。これは環境林業を担う人材育成の前段階として、まずは山村で生活できる人を育てることを念頭にした取組です。単なる「体験」にとどまらず、山村での「暮らし」をベースに、森林の持続的な利用と保全を念頭にした生態系のしくみ、資源としての特性、伝統的な利用方法などを体系的に身につけられるようカリキュラムを工夫しています。これまでに延べ100人余りが参加。17年には講座を受講した学生・会社員の3人が、翌年林業に就業し、そのうち1人が村に移住するという大きな成果も得られました。
森林調査研修の様子
利賀村の森林は、質的にも量的にもまだまだ育成段階です。100年後の利用を念頭に置きながら、高木性樹種だけでなく低木や下層を構成する植物など、森林生態系を構成する多様な動植物を保全しつつ、適切かつ持続的に利用することで、山村地域を支えていける森林と林業を育成していきます。
(7~2月に2泊3日の講座を全5回実施)
木材標本作製の様子(2018年)