
地球環境基金便り No.49 (2020年9月発行)
特集食と環境
今年2月のシンポジウムは政官民各方面からの関心も高く、内容の濃い3時間となった
いのちのカプセルともいえる「たね」。「種子」として、「作物」として、「穀物」として、「たね」は人の暮らしのそばにある大切な存在です。私たちはその「たね」という観点から、生物多様性と環境の持続可能性を確保するため、社会や市民に向けた問題提起や情報発信をしています。
運営委員代表の吉森弘子さん
遺伝子組み換え作物は、環境に及ぼす影響や農業の持続可能性という点で安全性が疑問視されています。次世代のゲノム編集は、新品種が規制されずに環境中に放出され、既存の生態系のバランスを崩しかねません。こうした問題について、本来であれば主体的に考え、かかわっていくべき市民が、何も知らされないまま物事が決められている現状を改善すべく、シンポジウム開催や啓発活動に取り組んでいます。
シンポジウムは年に2回行っており、最近では2019年6月に総会記念シンポジウム、20年2月に「ゲノム編集食品が食卓へ~表示とトレーサビリティの必要性~」を開催しました。来場者は各150人ほどで、専門家はもちろん、学生、消費者運動を実践する人、家庭菜園に取り組む人など職業も年齢層も幅広いのが特徴です。さまざまな立場の研究者や生産者、企業、メディアといった方から知識や情報を提供してもらったうえで意見交換をしますが、登壇者の考えを一方的に押し付けるのではなく、客観的な情報から参加者自らが考えをまとめる機会になるよう心がけました。
より小規模な「たねと食@カフェ」という催しもあります。遺伝子組み換えやゲノム編集などについて、参加者が率直に意見を述べ合う場です。開催形式は自由で、「映画上映会&カフェ」「料理教室&カフェ」「ビールを飲みながら遺伝子組み換えのこと語ろうカフェ」などもありました。専門的な知識がなくても、たねをつないでいくこと、食の安全性や農業・自然環境の持続可能性のことなどを楽しく気軽に考える場となっており、参加者からは「難しそうで敬遠してきたが、知識が一気に増えて面白くなってきた」など好評です。カフェでの気づきや学びを通して問題意識を持てる人材が育っていくのがとても楽しみです。
たねと食@カフェの様子
開催地 | 内容 | 参加者数 |
---|---|---|
北海道 | 種子法廃止後の 全国状況について |
50名 |
山梨県 | たねのこと一緒に考えよう③ ゲノム編集 |
15名 |
栃木県 | 大豆収穫祭オダイズサイ2019 世代を超えた座談会 |
100名 |
東京都 | たねのこと。 いっしょに考えよう①入門編 |
9名 |
奈良県 | 種子法廃止後の動向。 遺伝子組み換えとゲノム編集 |
8名 |
滋賀県 | 種子条例制定に向けて 私たちができること |
8名 |
近年、流通の進歩によって食と農の距離はますます離れていっています。消費者が「食の背景」、つまり食品の生産から食卓までの物語を思い描くことが難しくなっているのです。消費者が生産者の暮らしや、生産の場である農山漁村の環境や文化に思いをはせる機会が減りつつあるからかもしれません。
食は人と人、人と地球環境をつなぐものであり、食品を選ぶことは世代共通の責任として社会の未来を選ぶことにもつながっています。「たね」をめぐる問題提起を通じて、そうした価値観も広げていきたいと思っています。