
地球環境基金便り No.49 (2020年9月発行)
特集食と環境
オーナー制度は種まきから収穫、料理まで年に3~4回は地域を訪れて作業するため、地域の人との交流も生まれる
当団体の活動拠点である五ヶ瀬町は、宮崎県北部に位置する中山間地域です。2015年には、山間地ならではの農林業や神楽などの伝統文化が評価され、「高千穂郷・椎しい葉ば山地域(高千穂町、日之影町、五ヶ瀬町、諸塚村、椎葉村)」として国連食糧農業機関により「世界農業遺産」に認定されました。
理事長の杉田英治さん
しかしその世界的な価値を地域住民は認識できていません。多くの中山間地域同様、人口は減少して高齢化が進み、耕作放棄地も増えています。そこで当団体では、世界農業遺産の集落の文化、農業、食をからめたさまざまな農業体験やイベントを提供。実践活動を通じて関係人口(注)を増やし、山村での暮らしへの共感を醸成するとともに、地域住民にも都市部に住む人の視点を通して地域の価値を再発見してもらえるよう活動しています。
注:移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のこと。地域づくりの担い手不足という課題に直面している地方では、地域づくりの担い手となることが期待されている。
当団体のプログラムで特に人気があるのが「フットパス」です。フットパスとはイギリス発祥の「歩くことを楽しむための道」のことで、地域内に複数のコースがあります。個人で歩くこともできますが、集落に住むガイドと一緒に歩くイベントにも多くの方々が参加しています。地元の農家さんを巻き込み、地元食材を使った昼食を食べられるのが人気の秘訣で、なかでも都会ではなかなか食べられない山菜やヤマメなどを使った料理や、ヤマモモなど山の果実のデザートが好評です。
フットパス「高千穂町下川登コース」では、昼食に黒竹を調理器具として使い、地鶏や炊き込みご飯を炭でじっくり蒸し焼きにする伝統料理「カッポ料理」を提供
また年間を通して作業や交流活動に参加できる都市居住者をターゲットにしたオーナー制度も実施しています。19年度は、地域に残る循環型農法「焼畑」を体験する「焼畑雑穀オーナー制度」、「ヤボ焼き」という刈った草を焼いて肥料にし、雑草の繁殖も抑えられる昔ながらの農業手法を体験する「ヤボ焼き雑穀オーナー制度」、芋を育て芋焼酎をつくる「焼酎夕日の里オーナー制度」の3プログラムを企画。参加者からは「作業だけでなく、交流会で地元の方と触れ合えるのがいい」「山野草もおいしい料理になることに感動した」などの声が聞かれました。一方の協力してくれる農家さんたちも、普段何げなく食べている地場産物をおいしく食べてもらえて喜んでいます。
春のフットパス五ヶ瀬町宮野原コース「しだれ桜の里」の様子
五ヶ瀬の隣には高千穂と阿蘇という有名観光地があり、多くの旅行者が訪れています。観光は隣接地域にまかせ、私たちは高千穂郷・椎葉山地域を本格的な自然体験や農業体験を気軽にできるエリアに成長させていきたいと考えています。今年度は新型コロナウイルスの影響で企画の中止・変更もありますが、参加者数を減らす分、より充実した内容でコアなファンを獲得していきたいです。
新型コロナウイルスで緊急事態となっても、食料生産をストップすることはできません。むしろこんな時だからこそ、農業は重要かつ不可欠なものであることを再認識してもらうためにも、できる配慮をしつつ、農業体験などのプログラムを再開していきます。