地球環境基金便り No.50 (2021年3月発行)
特集環境×防災
2018年熊本地震復興セミナー第1回「コミュニケーションの場や学びの場を活発にする様々な工夫」の様子。公益社団法人日本環境教育フォーラム理事長の川嶋直さんを講師に迎え、参加型のコミュニケーション方法や伝わるプレゼンテーションの手法などを学んだ
RQ災害教育センターでは、2017年から3年にわたり熊本県上益城郡益城町島田(東無田(ひがしむた)地区)で、熊本地震からの復興と持続可能な地域づくりのための活動をしてきました。益城町は2016年の熊本地震で甚大な被害を受けましたが、なかでも東無田地区は家屋の7割が全半壊し、地域外に人口が流出。地域住民の孤立を防ぎ、生きがいを持てる場や暮らしの糧を得られるようにするための中長期的な支援が求められていました。
運営委員の八木 和美さん
被災地に人が集まる場を再興し、新たな魅力を創出したい。そのために私たちは、被災地に自然学校の手法を取り入れることを考えました。自然学校とは環境教育や野外体験などを行う施設や組織ですが、近年は過疎化などの課題を抱える地域の再生拠点としての役割が拡大しています。そこで全国の自然学校から講師を招聘し、益城町で「熊本地震復興セミナー」を開催。「人づくり×地域再生」「人が集まる場をつくる人のためのリスクマネジメント」「復興×ゲストハウス」などをテーマに全9回実施し、自然学校のノウハウやそれを活用した地域再生の可能性、コミュニケーションのコツなどを被災地の人たちに伝えました。
またセミナー参加者から3人が、自然学校を主軸にした地域再生の先進地である長野県泰阜村を訪問。NPO法人グリーンウッド自然体験教育センターのスタッフや村の人と交流しました。参加者からは「真の復興のためにはその土地に住む人や地域を愛し、明るい未来を描くことが大切だと感じた」「今ある物や住んでいる人、自然の恵みを生かした『田舎らしい』復興の参考になった」などの声が聞かれました。
地震で大きな被害を受けた東無田八幡宮
境内で復興マルシェを開催。多くの人が集まり賑わった
地域住民の心の拠りどころである東無田八幡宮も、地震で拝殿が倒壊するなど大きな被害を受けました。発災直後はこの神社の境内が炊き出しや物資の配布など地域の災害支援拠点として機能していたこともあり、ここが賑わいを取り戻すことが復興の象徴となると考え、地元の東無田復興委員会と協力して境内で「復興マルシェ」を開催しました。初年度は夏祭りに合わせた開催でしたが、2年目からは当団体を含む有志で「東無田八幡マルシェ実行委員会」を立ち上げて開催。3年目には地域住民の提案により「東無田おるげんと市場」と名称を変更しました。「おるげんと」とは熊本の方言で「私のもの」、つまり「私たちの市場」という意味です。出店は地元農家の野菜、手仕事の品、カフェなど地域内からがほとんどですが、3年目には天草の海産物など地域外からの出店もあり、300人を超える人が集まるまでに拡大。賑わいを取り戻せたと感じる一日になりました。
今後は私たちが蒔いた復興の種が現地で芽吹き、地域住民のなかから地域課題の解決に取り組む人や組織が誕生することを期待しています。