地球環境基金便り No.50 (2021年3月発行)
トイレ前にある浅井戸は、トイレの水洗や手洗いに使われるのと同時に、炊事や洗濯もこの井戸の周りで行われていて、子どもの遊び場にもなっている。そのため、下痢症リスクが懸念される
(改善後の様子を次のページでご覧いただけます)
人や社会と水の消費、使用後の水との関係を調査・研究する日本下水文化研究会は、1999年にNPO法人格を取得し、2004年からは海外にも活動の場を広げています。バングラデシュにおける支援は、農村地域でのトイレ普及と衛生環境の改善から始まり、2012年からは都市スラムでの支援に着手しています。
今回は、コミュニティの女性を中心に行われている活動についてお聞きしました。
今回の事業対象となったクルナ市は、バングラデシュで3番目に大きな都市。市内には多くのスラムが点在している
アジアの中の最貧国の一つであるバングラデシュでは、人口1億6千万人のうち約3千万人が都市スラムで暮らしていると言われています。スラムでは行政サービスが行き届かず、劣悪な衛生環境など多くの問題があり、国際機関やNGOが支援を行っている状況です。
感染症も大きな問題です。スラムの多くの家には戸別のトイレがなく、住民は共同トイレを利用していますが、絶対数が不足しており、管理も不十分です。給水設備が備わっていないトイレも少なくないため、便の水洗や手洗いが徹底されていません。また、生活用水は井戸水が頼りとなっていますが、同じ井戸を水源に食事の準備からトイレの水洗までが行われていたり、不衛生な環境下にあります。このような状況の中で、子どもたちは下痢症などの感染リスクにさらされています。
事務局長の酒井彰さんは「設備としてトイレを整備しても、手洗いなど住民の衛生行動が変わらない限り、住民の下痢症リスクは改善されません。そのため、啓発活動によって衛生行動の変容を促すとともに、住民主体のもとで考えられた設備の導入や更新などの介入を行い、さらに、衛生環境を持続させるためのしくみづくりとして、自主的に共同トイレや給水設備の管理を担うコミュニティ組織を形成しました」と話します。
事業対象のクルナ市内の貧困層コミュニティで、まずワークショップを開催しました。子育て中の女性を中心に、普段の生活行動を洗い出し、下痢症の感染経路や感染を避けるために自分たちでできる方法を一緒に考えました。次のワークショップでは、個人の取り組みでは解決できない問題について、コミュニティでどのような協力ができるのか、どのような設備が必要なのかを話し合いました。そこから、トイレ内に給水設備がないこと、トイレ前の浅井戸が炊事や洗濯など生活全般に使われていることが問題としてあげられました。
「当初はトイレへの給水と手洗い場を設けるだけで、飲み水の供給までは考えていませんでしたが、飲み水や炊事などに使う水とトイレで使う水を分けることで感染経路を断ち、あわせて乾季の水不足を防ぐためにも、飲用の深井戸を掘削することに決めました。また新しい深井戸は水くみとトイレの利用の動線が重ならないように設置しました」と現地で活動された高村哲さんは話されます。