NGO・NPOの活動事例から
I I N E T （イーイーネット）

カンムリシロムク保全活動を通じて
広く陸や海の生物多様性保全の意識を形成

マスターファシリテーター（公園職員）からカンムリシロムクの生態を学ぶ子どもたち

インドネシア・バリ島の西部バリ国立公園（以下、公園）には、マングローブ林、熱帯モンスーン林、熱帯雨林、熱帯サバンナ林などの多様な生態系があります。そこに生息するムクドリの一種「カンムリシロムク」はバリ島の固有種で、昔は公園周辺の村の空を覆うほど飛び交っていました。ところが近年、森林の減少や密猟が原因で個体数が激減。今ではIUCNのレッドリストで絶滅危惧種に指定されています。

こうした状況のもと、日本のNGO「一般社団法人あいあいネット」は、2008年から現地で人と自然が共生する地域づくりを支援し、住民主体の活動が生まれてきました。その後、現地のコーディネーターや専門家、公園事務所関係者らが民間のボランティア団体「IINET」を設立。2020年からカンムリシロムク保護村づくりの活動をスタートさせました。

環境ファシリテーターと一緒に子どもがモニタリング活動

代表
Elizabeth Rahyu Prihatiniさん

活動の主役は子どもです。子どもたちにとって身近な家や学校の環境保全から始め、いずれ自分たちの村まで活動範囲を広げられるようになることが重要だと私たちは考えています。そこで企画したのが、環境ファシリテーターが公園周辺の村の小学校で実施する環境学習です。環境ファシリテーターは村の若者から育成します。まず公園職員が村を訪問し、村人と親交を深めつつ環境保全に興味をもった若者に研修を実施。環境ファシリテーターとなった村人が村の子どもに環境教育を実施するという、まさに地域に根差した活動です。残念ながらコロナ禍で学校を直接訪れる計画は延期になっていますが、これまでに育成した環境ファシリテーターは村のゴミ管理や家畜の糞から堆肥をつくる住民グループとの活動など現場で活躍しています。

今、村の子どもたちは環境ファシリテーターに見守られながら、カンムリシロムクのモニタリングに取り組んでいます。群れの個体数や幼鳥の数、村内での行動を記録し、定期的に公園職員に報告しています。モニタリングにより、子どもたちは自然に村のカンムリシロムクがどこでどんな行動をしているのか分かるようになってきました。ゆくゆくはこの子どもたちが、村の環境保全の取り組みの主体になっていくことを期待しています。

より多くの村人を巻き込んで活動を拡大させていきたい

カンムリシロムクのつがい
（撮影：スギアルト）

カンムリシロムク保全の取り組みは、間接的に村人の環境問題や生物多様性に対する意識を培うものです。「カンムリシロムクが以前と同じように集落で飛び交えるような環境を整備したい」という村人の思いは、マングローブ林やサンゴ礁、多様な動物たちなど広く陸や海の生物多様性保全への意識の形成につながっています。最近では、違法伐採や密猟など環境破壊につながる行動を目撃したとき、積極的に関係当局に連絡する村人も現れ始めました。今後もより多くの村人を巻き込んで活動を拡大させ、いずれはエコツーリズムなどで村の観光振興にも直接貢献できるようにしていきたいです。