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地球環境基金便り No.52 (2022年3月発行)

助成活動レポート Field Voice
一般社団法人 はまのね

害獣と扱われる鹿との関わりから
「共生」の多様な意味を掘り起こす

鳥獣による農作物被害(注)のうち約3分の1がニホンジカ(以下鹿)によるもので、多くの自治体では被害への対策が立てられ、ネットによる侵入防止、罠や猟銃での捕獲が行われています。鹿による被害が深刻な宮城県石巻地域を活動拠点とする一般社団法人はまのねでは、鹿の捕獲活動と並行して、さまざまな人が「人と鹿との共生」について思いを巡らせてもらうためのしくみづくりを行っています。同団体の活動について話を伺いました。

(注)
令和2年度の全国の鳥獣による農作物被害金額は約161億円。そのうち鹿による被害金額は約56億円(農林水産省)。

東日本大震災で壊滅的な被害を受けた故郷・蛤浜(はまぐりはま)を再生するため、2012年に古民家を改装した「cafeはまぐり堂」をオープン。同時に交流人口を増やす蛤浜再生プロジェクトを立ち上げ、年間1万5千人を超える人が同地を訪れるようになりました。さらに、この先も集落を維持していくために、より幅広く地域の課題解決を担おうと組織改変した一般社団法人はまのねは、鹿に関する問題にも取り組むようになりました。

石巻市は、仙台市の北東に位置する市。仙台湾をかかえ太平洋に突出する牡鹿半島の付け根の位置に蛤浜はある。
写真1

明治以降、石巻市の鹿の分布は牡鹿半島をおもな生息域としていたが、現在は内陸部にも再拡大している

「蛤浜周辺では20年ほど前から鹿を目にするようになり、震災後は目に見えて増えています。柵をしても作物が食べられてしまうので、住民は家庭菜園をあきらめざるを得ません。また下草や植林した木までも食べ尽くされて、山は土砂崩れの危険性が高まるなど、周辺環境は荒廃してきています」と代表理事の亀山貴一さんは話します。「カフェで使う地元産の目玉食材を探していると、猟師が捕獲した鹿の肉が販売されていることを知り、代表の方を訪ねることにしました。そこで知ったのは、鹿による農林業被害や猟師の高齢化、後継者不足、捕獲された鹿のほとんどが廃棄されているという現状でした。これらの問題に関わりたいと、まずはカフェでの鹿肉のメニュー化から始めました。食べることで身近になり、鹿に関する諸問題の入口として機能するのではと考えたのです」

湧き上がってきた問題意識

活動を続けていくうちに、猟仲間や思いに共感する仲間が増えていき、捕獲した鹿を食肉にするための加工施設を立ち上げました。この施設は鹿肉の流通のためだけではなく、鹿や捕獲に関わる人を増やす役割も担っています。そのため、定期的に鹿の捕獲・解体体験の受け入れや捕獲技術向上のための講習会などを行い、持続化に向けて取り組んできました。

しかし、活動を進める一方で、数多くの「鹿を悪者扱いする声」に、活動のあり方を考え直す必要があると思ったと猟師で事業責任者の大島公司さんは話します。「鹿の被害に遭わなくても害獣という言葉は耳に入ります。また被害を受けている人の多くも、捕獲は猟師に任せきりで、自ら関わることはありません。害獣駆除や生態系のバランスという言葉がひとり歩きし、数の管理で人と鹿の共生を成り立たせようとしているのが現状です。『これこそが共生だ』という正解は無いとは思いますが、より多くの人が共生について考えることが大切なのではと考えるようになりました」

写真2 夜、内部が道路照明に照らされているトンネルの手前にいる鹿
写真3 鹿が食べてしまった木の枝
写真4 畑の周りに張り巡らされた鹿よけネット
写真5 罠にかかった鹿

同じ生態系にいる人と鹿。鹿は生きるために草木を食べ、人は鹿から生活を守るためにネットを張り、罠で捕獲する。利害がぶつかるときに他者とどのように関わり合えるだろうか。
(写真提供:矢野貴昭)

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