
地球環境基金便り No.57(2024年12月発行)
旅行を通じて環境を考える「ゼロカーボン・トラベラー」を推進しているのが、北海道富良野市で活動するNPO法人C・C・C富良野自然塾です。旅によって発生するCO2を数字で可視化。旅行者が旅先で植樹し、将来のCO2吸収へつなげるという取り組みです。塾長は、長年、富良野からさまざまな発信を続けている作家・倉本聰さん。倉本さんのもとで活動を続けて7年という若きリーダー、岸上さんにお話を伺いました。
そもそものきっかけは、約20年前に井戸水が枯れたことでした。地元富良野の環境危機を、身をもって感じた塾長の倉本聰が、閉鎖されたゴルフ場の活用相談を受けて「元の森に還そう」と、自然還元事業&環境教育事業のプログラムを考えました。2005年から活動を始め、環境教育の面においては、地元の小学校のカリキュラムに組み込まれたほか、自然塾のプログラムを行う分校が東京・京都・神奈川をはじめ全国各地にできるなど、活動が広がっています。
現在、地球環境基金の助成を受けている「ゼロカーボン・トラベラー」の活動は、その思いとアクションに、旅行者を巻き込んでいこうというものです。富良野市は市民2万人に対し、年間観光客200万人という観光の町。市民と旅行者が協働で環境アクションすることで、さらに大きな動きにつなげていけると思っています。
助成1年目の2023年は、市民・旅行者合わせて累計168人が参加し363本が植樹されました。また、行政・環境事業者との連携体制も整いつつあり、富良野市ワーケーション展開費用助成金の申請条件に「富良野自然塾のゼロカーボン・トラベラー事業への参加」が加えられました。
植樹では、北海道の在来種であるアカエゾマツ、ハルニレ、ミズナラの苗木を3種類1セットで寄せ植えにします。これは今後環境が変化するなかで、どの樹種が生き残るかわからないからです。
苗は約3年かけて種から育てています。苗木や若木をウサギや鹿などから守らなければいけませんし、植樹から15年ほど経った頃には間伐も必要です。人が森をつくるというのは、本当に手間と時間がかかります。
ただ、植樹はあくまでもきっかけです。環境危機を体で感じるためのシナリオの一部であり、地球環境が今どれほど急激に変化しているのか、それを食い止めるために「自分たちが何をしていきたいのか」を考えることが重要です。
富良野自然塾のフィールド内には、46億年の地球の歴史を辿る「地球の道」があります。隕石がぶつかり、海ができ、酸素が発生して、地球が凍り、最終的に人類が誕生する。この星が辿った膨大な時間と数々の奇跡の末にある今。私たちがどのように暮らしているのかを考える460mの道です。私たちがストーリーテラーとなり一緒に歩くことで、この壮大な地球のドラマを参加者と共有し「自分が何をすべきか、していきたいか」を感じ、植樹をしてもらいます。この倉本が書いたシナリオは、何年経っても廃れることなく参加者に語りかけています。
元ゴルフ場のフェアウェイに紙製の鉢「カミネッコン」で植樹する。植樹者には「ゼロカーボン・トラベラー認定書」を発行。「植樹後にも、遠くから樹を見守り続けてもらえるよう。認定書の情報は特設WEBサイトでチェックできます」と岸上さん。
「私たちが呼吸で吸っている空気のある層は、この直径1mの地球でいうと厚さはどれくらいになると思いますか?」と岸上さん。問答することで地球環境を再認識します。「答えは、ぜひ各地の自然塾で!」
旅行者に旅の環境負荷を「自分ごと」としてもらうために、特設WEBサイトで誰でも無料で利用できる「CO2排出量測定ツール」を作りました。旅程を入力すると、その旅のCO2排出量がわかるというものです。例えば、東京から2泊3日で富良野旅行をした場合、約18㎏のCO2を排出する計算となり、これは樹齢50年のトドマツ1本が1年間に吸収するCO2量に相当します。助成初年度は260人の旅行者がツールを利用しましたが、年間800人の利用が目標です。最終的には、全国の自治体でも使える汎用性のあるツールにバージョンアップする予定です。手始めに今秋、サイトをリニューアルしました。もっと多くの旅行者にこの活動やサイトを知ってもらえるよう、地域とも協働し、しっかり発信していきたいです。
将来的には「〇〇に来たら木を植えよう」が全国の観光地で展開され、「ゼロカーボン・トラベラー」という旅のスタイルが根付いてほしいと願っています。
2024年秋にリニューアルされた特設WEBサイト。
https://zerocarbontraveler.com