地球環境基金便り No.47 (2019年9月発行)
特集森林(もり)をつくる、
人をつくる
作業道の敷設。自伐型林業では小型機械しか使わないため、幅員2.5m以下の狭い道でも作業が可能
「自伐型林業」とは、山林所有者や地域の住民が適正な規模の森林を自ら施業・管理する、自立・自営の林業です。農業では農地の所有者が自ら土地を耕し、収穫し、出荷します。それと同じように、山林の所有者もしくは地域住民が山林を管理し、木を伐採し、出荷するのが自伐型林業です。当団体は、今まで日本の主流であった大規模林業とは全く違う、収益性・持続性があり、環境保全にもつながる自伐型林業を全国に広めるべく活動しています。
長らく日本では「林業は儲からない」と言われてきました。たしかに森林組合や事業者による大規模林業は採算が合わず、補助金頼みになっているのが現状です。しかし実際には、林業を生業として家族を養っている人がいます。自伐型林業であれば、十分に生業として成り立つのです。
代表理事の中嶋さん。中嶋さん自身も全くの未経験から林業の世界に入った
そもそも自伐型林業は、基本的な考え方が大規模林業と全く違います。大規模林業は、50年周期で皆伐と再造林を繰り返す「短伐期皆伐施業」です。それに対して自伐型林業は、所有・管理する山林を約10年に一度の頻度で1.5~2割程度の間伐を繰り返し、間伐材を出荷して収入を得ます。これを「多間伐施業」といいます。一人が管理する適正規模は50ヘクタール程度で、毎年5ヘクタール間伐をして10年で一回りします。間伐せずに残った木は成長し続けるため、毎年間伐しても山林全体の木の体積量は増え続けるうえに、樹齢を重ねて木材の品質は上がります。自伐型林業は永続的に山林を管理する持続可能な森林経営です。
収益性が高いのも自伐型林業の特徴です。生産量を重視する大規模林業では、大量の木材をB材(集成材等)・C材(エネルギー材)として出荷しますが、自伐型林業はほとんどをA材(無垢材等)、つまり高品質材として出荷します。日本の木材は集成材にするのはもったいないほど高品質なので、適量を伐採してA材として出荷することで収益性を上げられます。また低コストでできるのも大きなメリットです。小型機械だけで作業するため、機械購入費も燃料費も安く、作業道の幅が狭い分、敷設費も安く済みます。広い作業道を敷き大型機械を使う大規模林業は、投資した分を回収するため皆伐しますが、小さな林業である自伐型ならば間伐だけで十分儲けが出ます。
現在の一般的な林業 (短伐期皆伐施業) |
自伐型林業 (多間伐施業) |
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基本 スタイル |
経営・施業を請負事業体に全面委託 (所有と経営・施業の分離) |
経営・施業を自ら又は山守と共同で実施(所有と経営の一致:自立した自営業) |
施業手法と 採算性 |
短伐期皆伐施業(50年皆伐・再造林)採算が合わず高額補助金頼み | 長期にわたる多間伐施業(100~150年以上)2~3回目の間伐から補助金なし(完全自立) |
規模 | 大規模施業+大型機械+幅広作業道 | 小規模施業+小型機械+2.5m以下の作業道 |
生産材 | B材(合板・集成材)、C材(エネルギー材)が主流 | A材(無垢材等)の高品質生産が主体+ B、C材 |
日本の中山間地域はどこも人口減という問題を抱えていますが、それは中山間地域では十分な収入が得られないからです。中山間地域でも子どもを産み育てられるだけの安定した収入が得られれば、人は戻ってきます。自伐型林業ならばそれが可能です。低コストで始められるうえに、春夏は農業、秋冬は林業という兼業もできます。自伐型林業は日本の中山間地域存続の切り札だと私は考えています。