地球環境基金便り No.47 (2019年9月発行)
特集森林(もり)をつくる、
人をつくる
今、日本の森林は「巨大化」しています。木々が大きく育つことはいいことのように聞こえますが、実はそうではありません。ただ大きく育っているだけで、質が悪いのです。外から見れば青々と美しい山も、内部は荒廃し、本来森林が持っている保水機能や水源の涵養機能、土壌保全機能などが失われています。その結果、近年は少し強めの雨が降ると山が崩壊し、土砂災害が多発する事態に陥っています。
なぜ日本の森林は荒廃してしまったのか。その答えは明確で、「手入れをしていないから」です。戦後、急速に進む都市化を支える建材や、炭や薪などの燃料を供給するために、奥地の森林まで伐採し、その後、燃料が化石燃料や電気に変わるなかで、山には盛んにスギやヒノキが植林されました。ところが外国から安い木材が大量に輸入されるようになり、国産材の需要が減少。植林されたスギやヒノキは今、伐採期(生産可能な時期)を迎えているのに放置され、荒廃しているのです。
木を伐らないことが荒廃の原因ですから、森林を健全な状態に戻すためには、もっと木を伐り国産木材を使えばいいのです。実は現在、国産木材は決して高くありません。スギやヒノキの丸太でみると、円高と需要の激減で値段が下がり、1992年以降、国産木材のほうが安い状態が続いています。それでも国産木材の需要が増えない理由は、多数の住宅を同時に建てる住宅メーカーにとって、一度に大量に輸入できる木材のほうが効率的だからです。しかし国産木材は、輸入木材とは比較にならないほど高品質です。輸入木材の住宅の寿命は30年ほどですが、国産木材の住宅は100年以上もちます。30年で「ビルド&スクラップ」を繰り返す今の方式から、地元の大工による国産木材を使った高品質な家づくりへの転換が必要です。
また新たな木材の利用法として近年注目されているのが、バイオマスエネルギーです。間伐材をチップやペレットに加工して燃やし、エネルギーにする木質バイオマスは、カーボンニュートラルなエネルギーとして近年増加傾向にあります。しかし全国にある大規模なバイオマス発電所では、燃料が国産木材では間に合わず、結局、輸入しているのが現状です。そこで推進したいのが、地域の森林資源に応じた規模の発電所です。例えば一般家庭約40軒分の電力を賄うような小規模のバイオマス発電所であれば、原料は地域の山からとれる木材で足ります。地域の木材を、良質のものは建材に、それ以外は燃料として使用する。使った分はまた植林して育て、使用する。地域内でそのサイクルを維持し、健康な森林を形成することは、森林の多面的機能を持続的に発揮させるとともに、地域の活性化にもつながります。
さらに今、私たちが力を入れたいと考えているのが「森林のサービス産業化」です。山に行くのは、それだけで健康にいいものです。緑の中に身を置くだけで癒しやリラックス効果が期待できますが、科学的にも免疫力アップや血圧の低下、怒りや緊張の緩和効果があると認められています。そこで地域の山をいわゆる「森林セラピー」に活用してもらおうという試みです。例えば健康保険組合の保健事業などに使ってもらうのはどうでしょうか。人々が健康になり、それで得たお金を森林の保全に使うことができます。森林のサービス産業化は、人々の健康にも国土保全にもいい関係が生まれるでしょう。