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地球環境基金便り No.49 (2020年9月発行)

特集食と環境

総括インタビュー
國學院大學 客員教授 古沢 広祐さん

水や空気、そして食という命に必須なものは、
つくり方も、運び方も、消費の仕方も、
ローカルな仕組みに再編成したほうがいい

私たちの命の源であり、生きるために欠かせない「食」。その「食」が、地球環境にどのような影響を及ぼしているか想像したことがありますか?2019年度の日本の食料自給率は38%(カロリーベース/農林水産省)。食品の約6割を海外からの輸入に頼っているということであり、今や日本の食卓は輸入食品なしには成り立たなくなっています。大量の食料を海外から運んでくる一方で、私たちはまだ食べられる食品を大量に捨てています。その量はなんと年間612万トン(農林水産省)。国民一人ひとりが毎日茶碗一杯のごはんを捨てている計算です。

現代の「食」の何が環境に負荷をかけ、どうすれば環境保全につなげられるのか。長年にわたり研究者として、そしてNGOとして環境や食・農の国際的枠組み動向に積極的にかかわってきた國學院大學の古沢広祐客員教授にお話を聞きました。

「食」をめぐる人間中心主義が環境に影響を及ぼしている

「食」は私たち人間と生物のつながりを最も端的に示すものです。生態系ピラミッド(図1)に表されているとおり、人間は食物連鎖によって全ての生き物とつながっています。生態系の食物連鎖の中で生き、生かされているのです。人間は生態系ピラミッドの中で最も繁栄し、地球全体に大変な影響を及ぼしています。

図1生態系ピラミッドと食物連鎖地球上の全ての生き物は食物連鎖によってつながっています。生態系ピラミッドでは、数が多い下段から分解者(細菌・バクテリア)、生産者(植物)、消費者(草食動物・昆虫など)、高次消費者(肉食動物など)とつながり、頂点に人間がいます。

人間による影響は、空気や水、エネルギー資源などいろいろな部分に表れていますが、なかでも「食」はまさに命と直結する問題です。その大切な「食」を、人間が生態系ピラミッドの頂点で支配しています。そこには家畜や作物、それを支える農業生態系まで組み込まれているため、全体をバランスよく管理することが重要です。すでに地上のほ乳類のバイオマス(生物量)の60%をニワトリや羊、ヤギ、豚、牛などの家畜が占めており、人間が36%なので、野生ほ乳類はわずか4%でしかありません。

作物についても同じです。私たち人間は長い歴史の中で多種多様な植物を利用してきたにもかかわらず、食料の大量生産、大量消費を目的に、人間にとって都合のいい種ばかりを育てています。人間の「食」は、環境に大きなインパクトを与えているのです。

私たちが何をどう食べるかで環境も私たちの体も変わる

「飽食の時代」と言われて久しい現代、私たちは日本にいながら簡単に世界各国の食材を入手できるようになりました。しかしその背後では、遠い国や地域から食料を輸送するために大量のエネルギーを使い、大量のCO2を排出しています。またスーパーの店頭には、季節に関係なく一年中同じ野菜や果物が並びます。これはビニールハウスや温室などを使った施設栽培の普及によって、農作物を旬以外の時期にも収穫できるからですが、加温の施設栽培は、旬の季節に露地栽培するのと比較すると大量にエネルギーを使用します。いつでもどこでも好きな食材を購入できる今の便利な生活は、環境に大きな負荷をかけています。

おいしいものを手軽に食べられるようになったことは、生活習慣病の増加という弊害も引き起こしました。現代の豊か過ぎる食生活は、環境のみならず人の体にも悪影響を与えています。

これに対して伝統的な食べ物や料理は環境への負荷が小さく、健康に良いものが多くあります。日本には「身土不二(しんどふじ)」という言葉があります。「身と土、二つにあらず」、つまり人間の体と人間が暮らす土地は一体で、切っても切れない関係にあるという意味です。似たような考え方として、西洋発祥の「スローフード」があります。ファストフードに対抗してつくられた言葉で、その土地でその季節にとれた自然の恵みを食べることが健康につながるという考え方です。

人間は食べ物を体内に取り込むことによって、「外なる環境(自然・生態系)」と「内なる環境(体内・健康)」が連結しています。環境と人間の体は密接にかかわっていて、私たちが何をどう食べるかによって、環境が変わり、私たちの健康もまた変わっていきます。

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