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地球環境基金便り No.49 (2020年9月発行)

特集食と環境

総括インタビュー
國學院大學 客員教授 古沢 広祐さん

水や空気、そして食という命に必須なものは、
つくり方も、運び方も、消費の仕方も、
ローカルな仕組みに再編成したほうがいい

家庭からの食品ロス削減は「食」への感謝の精神がカギに

食料危機を不安視する一方で、「食品ロス」が世界中で問題になっています。食品ロスとは、食べられるにもかかわらず捨てられる食べ物のことで、日本では1年間に約612万トン(2017年度推計)もの食品ロスが発生しています(図3)。国民一人ひとりが毎日お茶腕約1杯分(約132グラム)の食べものを捨てている計算です。

図3日本の食品ロスの現状(2017年度)日本の2017年度の食品ロスの量は612万トンで、その内訳は家庭からが284万トン、事業者からが328万トンとなっています。

食品ロスは飲食店や食品小売店など食品関連産業から出る事業系と、一般家庭から出る家庭系を分けて考える必要があります。事業系では、2001年に食品リサイクル法が制定され、食品廃棄物の再利用が義務化されるなど、一足早く取り組みが進んでいます。最近でも賞味期限の見直しやフードバンクの活用など、具体的な動きが見られます。

一方、家庭からの食品ロスはなかなか減らず、実は日本の食品ロスの半分近くが家庭から出ています。食材を買い過ぎて傷んでしまったり、賞味期限、消費期限が過ぎてしまったりして廃棄することや、料理のつくり過ぎで食べ残してしまうこともあるでしょう。野菜の皮を厚くむき過ぎるなど食べられる部分を捨ててしまうのも家庭からの食品ロスの原因です。普段の生活の中で、計画的に買い物をしたり、環境に配慮して料理をしたり、保存方法を工夫したりと家庭でできることがたくさんあるので、ぜひ一人ひとりが家庭からの食品ロス削減に積極的に取り組んでほしいと思います。

日本には古くから「一物全体食(いちぶつぜんたいしょく)」という言葉があります。一つのものを丸ごと全て食べるという意味で、昔の人は野菜の皮も利用したり、食べきれないものは塩漬けや乾燥させたりして、食べ物を大切に使いきっていました。ひと昔前の日本人が当たり前にもっていた、食料に感謝して大切に食べる精神を取り戻すことが、家庭の食品ロスを削減するカギになるでしょう。

アフターコロナ、協力しあってつくる新しい「食」のかたち

今、世界中で新型コロナウイルスが流行しています。人間にはインフルエンザなど感染症の大流行を幾度となく経験してきた歴史がありますが、今回が大きく違うのは、グローバル社会で発生したため非常に短期間で世界中にまん延し、ヒトやモノの移動が制限されたことです。多くの資源や製品を輸入に頼っている私たちの生活は、実はこのような変化に大きな影響を受けやすく、不安定なものなのです。

「食」の分野もまさに同じです。世界中から好きなものを好きなだけ購入し消費するやり方はリスクが高く、いつ食料の生産や流通が滞り、供給が止まってもおかしくありません。そして何よりも、環境に負荷をかけ過ぎています。これから私たちの食生活をどう変えていくのか。全てをローカルにするのは難しいとしても、優先順位をつけて環境負荷が大きいものはそぎ落とし、より負荷が小さく、そして自分たちの健康にもつながるような食生活を新たに組み立てていく必要があります。

「食」に関係する分野は非常に幅広く、食べ物だけではなく、水も空気も生物多様性も、川も海も含めてトータルに考えていく必要があります。持続可能な開発目標であるSDGsの17のゴールの中には、「食」に直接関係する目標がありますが、それだけに取り組んでも問題解決にはなりません。一つの取り組みが相乗効果を生み、他のゴールにも波及することを目指すというSDGsの「複合的効果」の理念こそ、まさに「食」にまつわるさまざまな問題を解決する道筋になるでしょう。今を契機に、全ての消費者、環境保全活動をする人、環境以外の分野で活動する人、農家や企業などみんなが協力しあって、環境負荷型ではない新しい「食」のかたちをつくっていければと期待します。

プロフィール

國學院大學 客員教授
特定非営利活動法人
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)代表理事

古沢 広祐(ふるさわ こうゆう)さん

1950年東京生まれ。大阪大学理学部卒業。京都大学大学院農学研究科博士課程(農林経済)研究指導認定、農学博士。地球環境問題に関連して永続可能な発展と社会経済的な転換、生活様式、持続可能な生産消費、世界の農業食料問題とグローバリゼーション、環境保全型有機農業、エコロジー運動、社会的経済・協同組合論などを研究。著書に『食べるってどんなこと?』平凡社、『食・農・環境とSDGs』農文協など。

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