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地球環境基金便り No.50 (2021年3月発行)

特集環境×防災

NGO・NPOの活動事例から
北の里浜 花のかけはしネットワーク

被災海岸の「海浜植物群落」再生活動を通して
環境学習と防災学習を実践

写真1

津波で消えた海浜植物群落を再生させる

東日本大震災の津波は、特に岩手県から福島県にかけての海岸線に甚大な被害をもたらしました。防潮堤は破壊され、海岸林は消滅。砂浜に自生していた海浜植物も姿を消しました。ところが、海浜植物はその後たくましく発芽。震災3か月後には被災海岸のさまざまな地区で海浜植物群落が見られるようになりました。

写真2

代表の鈴木 玲さん

私は北海道で自然植生の復元に携わっており、震災後、被災地でするべきことを見極めるために足を運んでいましたが、そこで目に入ってきたのは、まだ津波の爪痕が残る海岸で花を咲かせる海浜植物の姿でした。あの震災を乗り越え、力強く咲くその姿には、勇気を与えられました。しかしその後、状況は一変しました。震災から2年ほど経ち復興計画が進むと、大規模な防潮堤建設と海岸林復旧のための盛土工事が急速かつ画一的に始まったからです。このままでは海浜植物の生育地がどんどん狭まり、せっかく復活した群落が消えてしまうかもしれない。危機感が募ったものの、当時の被災地はまだまだ生活再建の目処が立たない人も多く、環境保全や自然復元が重要だと分かっていても、そうした活動に力を入れる余裕はありませんでした。ならば「北海道にいる私たちが立ち上がり、被災地の人たちと一緒に活動したらどうだろうか」。北海道には全国的にも珍しい、海浜植物の保護増殖に取り組む石狩浜海浜植物保護センターや、自生種の増殖技術を持つ雪印種苗株式会社などがあり、私たちの趣旨に賛同し協力を申し出てくれました。そして2014年、海浜植物を通して東北の人々と北海道の人々をつなぐ「かけはし」になる「北の里浜 花のかけはしネットワーク」を立ち上げました。

海浜植物群落は恒久的なレジリエンス

海浜植物とは砂浜に生息する種子植物のことで、よく知られているものには「ハマヒルガオ」や「ハナマス」などがあります。初夏にはきれいな花を咲かせ見る人を楽しませてくれますが、役割はそれだけではありません。一般的に海岸線には、海~砂丘~海浜植物群落~海岸林~後背湿地という連続的で多様な生態系が存在します。そのなかで海浜植物群落は、風で移動する砂を留めて砂丘の形成を促進し、また内陸への飛砂を防止して、海岸林の形成を助けます。そしてその後ろに広がる農地や住宅地への潮や風の影響を緩和するなど「グリーンインフラ(総括インタビュー参照)」としての機能も担っています。震災の津波から復活したように、破壊されても比較的早く回復する強さもあり、まさに「恒久的なレジリエンス(機能を速やかに回復させる強靱性・しなやかさ)」を有していると言えます。

仙台海岸と主な海浜植物

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ハマヒルガオ

写真4

ハマナス

写真5

ハマエンドウ

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ウンラン

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仙台海岸の防潮堤(高さ7.2m)。専門家らの働きかけにより、一部だが海浜植物保全のために防潮堤を曲げて砂浜を広くとっているのが見られる

残念なことに、海浜植物のこのような機能はあまり知られておらず、保全への関心も高くありません。近年は埋め立てや護岸工事により海浜植物の生息域となる砂浜が減少。海浜植物の生息面積を1970年代と2000年代で比較すると、700ヘクタール以上減少したという調査結果もあり(注)、今や日本の海浜植物群落は貴重な存在と言えます。しかしながら、震災後の津波防災に主眼を置いた防災インフラ整備でも、海浜植物群落の保全は何も考慮されないまま工事が進められました。その結果、津波被害から自律的に復元しつつあった砂浜や海岸林は大規模な盛土で埋め立てられ、さらに7メートル超の巨大防潮堤によって連続的で多様な生態系が分断されてしまうなど、「防災・減災と自然環境の調和」が図られない状況にあります。このままでは自然の力にまかせた震災以前の環境への復元は難しい状態です。

(注)
壱岐信二・廣澤一・赤羽俊亮・磯田真紀・村田眞司・松永義徳・塚本吉雄:わが国の海岸における汀線及び後背地の変化とその要因, 土木学会論文集B3(海洋開発),Vol.73,No.2,I_492-I_497,2017.

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