
地球環境基金便り No.50 (2021年3月発行)
特集環境×防災
そこで私たちが始めた取り組みが、津波被災海岸に自生する海浜植物の種子を採取し、北海道と現地の小中学校で育苗した後、地元の子どもたちや住民の手で再び現地の適地に移植する試みです。なぜ小中学校で育苗するのかというと、この試みが環境教育にとどまらず防災教育としての側面もあるからです。震災から年月が経過し、被災地でも遠隔地でも防災意識が少しずつ薄れつつあります。この活動に取り組むことで、子どもたちが環境保全の重要性を知ると同時に、震災で何が起きたのか、減災のためにできることは何かを学び、今後も防災意識を高く維持できることが期待できます。
北の里浜 花のかけはしネットワークのスタッフによる岡田小学校での環境学習の様子
活動に賛同し、継続して取り組んでくれている学校の一つが、仙台市宮城野区にある岡田小学校です。海から2.8キロメートル内陸に位置するこの小学校は、震災時には校庭まで津波が押し寄せました。活動のスタートは2016年。同校の児童の半数以上の家庭が被災しており、海に行く活動には配慮が必要なため、先生方と相談しつつ慎重に進めていきました。
岡田小学校では現在、この活動を「花咲く海辺づくりプロジェクト」と名付け、主に5・6年生を中心に取り組んでいます。地元の海岸で海浜植物の種を拾い、学校で苗を育て、地元の海岸に移植する一連の取り組みを2年間経験します。私たちは種集めや植え替えなどのイベントの際に岡田小学校を訪問。作業を行う前には、「防災と自然の両立」「海辺の植物の特徴」など海辺の環境や歴史、海浜植物についての学習時間を設けています。また2年間継続して取り組むことで、前年に経験した児童が翌年は先輩となって下級生に教えるよい循環もできています。2年間を経験した6年生からは、「きれいな花が見られて楽しかった」「ふるさとの海がこれからよくなるのが楽しみ」「もっと観察したかった」などの声がありました。
仙台市立岡田小学校
阿部謙 校長先生
当校ではこのプロジェクトを環境教育であり、復興・防災教育であり、かつ地域と連携した地域づくりにもつながる活動と位置づけ、総合的な学習の時間に実施しています。教員が一方的に与えるのではなく、子どもたち自身が「援助してもらうだけでなく、自分たちでふるさとを復興していきたい」「きれいによみがえった浜をたくさんの人に見てほしい」という思いをもって取り組める、とても大切な活動です。5年間ここまで積み上げてきたものが、当校の大きな財産になっています。今後も当校の特色ある活動として継続していきたいと考えています。
岡田小学校以外にも気仙沼市の小学校でも同様の育苗・植栽活動を実施。北海道の石狩中学校でも苗づくりに取り組んでいます。また賛同企業での育苗、名取市や釜石市での植栽交流会など、活動は軌道に乗っています。震災から10年が経過した今、少しずつ地域の担い手に技術移転し、地域主体で継続できるようにすることを考える段階にきています。今後はこれまでの活動をまとめ、小中学校での海浜植物群落再生を通じた環境教育と防災教育のモデルを構築し、学校や地域独自で活動できるようなマニュアルを作りたいと考えています。そしていずれ、海浜植物と地域の人々の暮らしが調和し、防災意識の高いまちづくりにつながることを願います。