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地球環境基金便り No.50 (2021年3月発行)

特集環境×防災

総括インタビュー
慶応義塾大学 環境情報学部 教授 一ノ瀬 友博さん

人口減少時代に突入した今こそ
災害リスクの高い土地の利用を再考し
自然再生と防災・減災の両立を

未曾有の被害をもたらした東日本大震災から10年。その間にも熊本地震、北海道胆振東部地震、そして毎年のように起こる豪雨災害など、私たちは数々の自然災害に直面してきました。今後気候変動の影響により、さらに自然災害リスクが増大すると予測されるなか、大規模な整備事業に頼ったこれまでの防災・減災対策を抜本的に見直す必要性に迫られています。

近年、世界では自然環境を防災や減災に生かそうという考え方が主流となっています。災害大国・日本は、これからどのような防災対策をしていけばいいのか。今回は「環境×防災」をテーマに、慶應義塾大学 一ノ瀬友博教授にお話を伺いました。

世界で注目される「生態系減災」

近年、世界でも日本でも急速に注目されているのが「生態系を活用した防災・減災、『生態系減災』」です。健全な生態系は災害を防いだり、災害の影響の緩衝帯として機能したりするなど、人々の命や財産が危険にさらされるリスクを軽減する機能を持っています。生態系減災は、そうした生態系がもつ機能を積極的に活用して災害リスクを減らそうという考え方です。「グリーンインフラストラクチャー(グリーンインフラ)」という言葉もありますが、これは防災に限らず社会が抱えるさまざまな課題を解決するために生態系がもつ機能を活用しようという考え方のことで、「生態系減災」はグリーンインフラの一つと言えます。

これまで日本の防災・減災対策は、堤防や防潮堤などコンクリートの人工構造物、いわゆる「グレーインフラストラクチャー(グレーインフラ)」がほとんどを占めていました。その流れが明確に変わったのは2015年。仙台で開催された第3回国連防災世界会議において、生態系に基づくアプローチの国際的な推進が優先取り組み事項に位置付けられると、同年に閣議決定された「第二次国土形成計画(全国計画)」にもグリーンインフラ活用の推進が初めて明示されました。

日本の生態系減災の先進地・舞根

ちょうどそのころ、東日本大震災の被災地では、高さ10メートルを超える巨大防潮堤が問題になっていました。津波被害を受けた地域のほとんどが高台集団移転を決めたにもかかわらず、巨額の予算をかけて巨大防潮堤を建設する必要があるのか、また巨大防潮堤で景観が損なわれるのでは、など議論が起きたのです。しかしこのとき既に震災から4年が経過し、仙台湾では巨大防潮堤が25キロメートル以上完成。残念ながらグレーインフラ主体の復興計画を見直すには時期が遅過ぎました。

その一方で、いち早く12年に巨大防潮堤建設計画の撤廃を求め、計画を覆した集落があります。気仙沼市舞根地域です。12年4月に防潮堤建設計画が示されてから撤廃の要望書を提出するまで2か月という速さでした。なぜ舞根地域だけがこんなに早く住民の合意を形成できたのか。近くで見てきた私が感じたのは、地域の結束力の強さです。典型的な漁村集落で地域行事も活発だった同地域では、震災後の避難生活でもバラバラにならずに共同生活を選択。普段からコミュニケーションが図られ、住民が議論する機会が多かったことが功を奏したのだと思います。

写真

高台に移転した舞根地域の住宅地。舞根地域は被災地のなかで最初に高台集団移転を決定した地域としても知られている。防潮堤について地域の人に聞くと「津波が来たときに海が見えなければ避難ができない。高い防潮堤は必要ない。いざというとき避難できる場所があればそれでいい」と話してくれたという

舞根地域は16年に高台集団移転が完了。今は津波浸水範囲をNPO法人が買い上げ、震災で生じた塩性湿地を保全しています。保全された湿地は平常時は環境教育の場として、津波襲来時は高台の住宅地との緩衝帯として機能することでしょう。舞根地域はまさに日本の生態系減災の先進地と言えます。

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