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地球環境基金便り No.51 (2021年9月発行)

特集 生物多様性は、今

NGO・NPOの活動事例から
特定非営利活動法人 喜界島サンゴ礁科学研究所

喜界島で培った地域主体のサンゴ礁保全活動で
奄美群島全体を自然と人間の共生先進地に

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隆起サンゴでできた喜界島では、島で採れる石は全てサンゴの化石。生活の道具や家の石垣などもサンゴでつくられてきた。研究所ではそれを「サンゴ礁文化」と呼び、海洋学習にも取り入れている

サンゴ礁は沿岸生態系の生物多様性を維持する重要なプラットフォームです。海には約50万種を超える生き物がおり、実はその4分の1はサンゴ礁に生息していると言われています。サンゴにはいろいろな形があり、その形によって棲める生き物の種類や大きさが変わります。サンゴの種類が増えれば、生き物の棲みかのバリエーションが増え、その海域の生き物の種類の増加につながります。サンゴの石灰質の骨格が長い時間をかけて積み重なり、サンゴ礁が形成されると、深い外海や白波が砕ける砕波帯、内側の波の穏やかな海域(ラグーン)などの地形ができ、それぞれに適応した多様な生き物が生息できるようになります。またサンゴは自分の体内に藻類を共生させて光合成したり、そのエサとなる排出物を出したりもします。熱帯・亜熱帯域の海は貧栄養で生き物にとって過酷な環境ですが、サンゴが体内で栄養を循環させることで他の生き物の命をつないでいるのです。

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所長 山崎敦子さん

喜界島サンゴ礁科学研究所は、そんな海の生物多様性の要であるサンゴの研究に特化した研究所です。南北に長い日本列島には、多様性に富んだサンゴが分布しています。なかでも喜界島は熱帯域と温帯域の真ん中に位置するため、熱帯性と温帯性のサンゴを観察できます。また喜界島は隆起サンゴ礁から成り立つ島であり、喜界島の地質を調査することで太古の昔から現在までの地球環境変動の記録が見えてきます。国際的にも希少な環境であるこの喜界島を拠点に、私たちは2014年から海洋・地質およびそれに係る生物に関する調査・研究事業をスタートしました。

島民・一般ダイバーが参加して定期的にリーフチェックを実施

当団体は2018年から喜界島で地域主体型のサンゴ礁保全プラットフォーム構築のための活動をしています。その活動の基礎となるのが「リーフチェック」です。国際的に統一された手法を用い、水深5メートルと10メートルで、一定の範囲を覆うサンゴの割合や魚の種類などを調査。研究所のスタッフだけでなく、ダイビングができる地域住民や島外から来たダイバーも参加できるため、今では毎年恒例のアクティビティにもなっています。

リーフチェックから見えてきたのは、まず喜界島のサンゴの被覆度(海底をサンゴが覆っている割合)が40%を超えていることです。この数値は世界的にもとても高いものです。以前は海がどのような状態にあるかは「記憶」だけで「記録」されていませんでしたが、リーフチェックにより記憶が数値となり、他のサンゴ生息域と比べて喜界島のサンゴの被覆度が非常に高いと定量的に示せるようになったことは大きな成果です。

また大雨で海に流れ込んだ土砂によって表面が覆われるとサンゴは死んで減少してしまいますが、その後回復が見込めることもわかってきました。調査を継続すれば、一度減ったサンゴがどのくらいの時間で回復するかも見えてくると思われ、今後のサンゴ礁の保全に役立つことが期待されます。

サンゴは近い将来、気候変動によって絶滅する恐れがあると言われており、私たちも水温の変化がサンゴにどう影響するかを注意深くモニタリングしています。サンゴは多様性に富み、生態系としての耐性があります。どうすればサンゴ礁を維持できるのか、今はさまざまな調査記録を丹念にとりつつ、土砂が流れ込む地形や地下水流入個所の調整といった情報を蓄積していきたいと考えています。

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喜界島沿岸のサンゴ礁。サンゴは世界中に800種類以上存在すると言われているが、喜界島サンゴ礁科学研究所では、これまでの調査で130種以上を確認している (©Kaito Fukuda)

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