
地球環境基金便り No.52 (2022年3月発行)
特集再生可能エネルギーの現在と未来
~脱炭素社会の実現に向けて~
参事 森英雄さん
当団体は徳島を拠点に、全国で「木質バイオマス熱利用」を支援しています。日本では総エネルギー消費の約14%が家庭で使われ、その半分以上が給湯や暖房のための熱利用であり(エネルギー白書2021より)、消費者向けのサービスや農業でも大量の温水が使われます。そのエネルギーを石油やガス、電気ではなく、チップやペレットなど木質バイオマスで賄うのが木質バイオマス熱利用です。高性能な木質バイオマスボイラーは90%以上の高い効率で温水を作ります。また化石燃料を燃やさないためCO2排出量も劇的に削減します。さらに燃料の木材を地域で調達すれば、燃料費が地域に還元されて域外に流出しない上に、森林資源の更新でCO2吸収量の増加にもなります。
木質バイオマス熱利用には、既存ボイラーを木質バイオマスボイラーに転換または新設します。ボイラーを購入する事業者のほかにも設計・設置・保守の業者や木質燃料製造業者、さらには林業者などさまざまな人材が必要です。そこで当団体が提案するのが、木質バイオマス熱利用に携わる人や組織を結ぶ「木質バイオマス熱利用地域アライアンス(同盟)」です(下図参照)。燃料チップやペレットは軽くてかさばり輸送コストがかかることと、ボイラーの設置やメンテナンスを地域内で行うことから、アライアンスの範囲は概ね50キロメートルと想定。圏内の企業や地域の人材だけで木質バイオマス熱利用のすべてを完結させます。
具体的には、まず木質バイオマス熱利用に強い関心をもった企業や自治体と導入計画について話し合います。次に熱利用施設の新規導入や転換の診断を実施。導入効果が高いと判断されれば、設計、燃料供給準備、助成申請、施工などの導入支援に移ります。この間、徳島にある当団体のバイオマスラボで、ボイラーの基本や取扱方法、チップ製造法などを学ぶ実践的な研修をするほか、相手先でも出張研修を実施。導入支援は2〜3年にわたり、研修や打ち合わせを通じて地域の実情に応じたアライアンスが形成されていきます。
5年間の活動で導入計画を支援した木質バイオマスボイラーは27施設。そのCO2排出削減量は年間6943トンと推定されます。また全国16の地域でアライアンスが形成され、既に導入された地域ではチップの製造供給やボイラー保守など新たな雇用や収入を生み、地域活性化にもつながっています。
私たちは木質バイオマス熱利用がCO2排出削減に直接的に貢献し、さらに地域経済にもプラス効果が大きいことを実感しています。今後も木質バイオマスボイラー導入に関する調査、設計、施工、保守などのノウハウを広め、またバイオマスラボの機能を関西圏にも拡大し、木質バイオマス熱利用によるCO2排出削減と地域活性化を支援します。
バイオマスラボでのボイラー実機研修