
地球環境基金便り No.52 (2022年3月発行)
特集再生可能エネルギーの現在と未来
~脱炭素社会の実現に向けて~
今の日本の自然エネルギーは太陽光発電が中心ですが、今後より拡大するためには風力発電の増加が必須です。「自然エネルギーは気候で発電量が左右され不安定」と言われることがありますが、それを解決する方法の一つが多様な自然エネルギーの利用です。太陽光は晴れた日の日中、風力は風が強くなる夕方以降に発電量が増加し、互いに補完しあいます。近年、国が洋上風力発電に力を入れているので、日本の自然エネルギー構成のバランスが良くなることを期待しています。
「カーボンプライシング」の導入も重要です。カーボンプライシングとは、排出されるCO2に価格を付け、CO2を排出した企業などにお金を負担させる仕組みです。太陽光の発電コストは年々安くなっていますが、石炭火力など既存の電気は設備の原価償却が終わり燃料費だけで発電できるため、まだまだ発電コストでは勝てません。古い電力より経済的に優位に立つためには、カーボンプライシングの早期導入が求められます。
一方で自然エネルギー拡大に伴う開発で環境破壊が進む、と心配する声もあります。確かにメガソーラー開発による森林伐採などでいくつかトラブルが起きています。こうした問題を起こさず自然エネルギーを拡大させるために、どこを利用するのか。まず候補に挙がるのが荒廃農地です。国内には使われずに放置されている農地がたくさんあり、そこを太陽光発電に利用すれば、土地の有効利用にもなり、所有者の収入にもなります。またルーフトップ(屋根上)も重要なスペースです。東京都が地図情報を使い日照条件が太陽光発電に適している住宅がどのくらいあり、実際にどの程度利用されているかを調査したところ、現状わずか4%しか利用されていませんでした。荒廃農地とルーフトップを活用すれば環境を保全しながら自然エネルギーを増やすことができます。
しかし環境への影響を極力小さくしても、ゼロにはできません。例えば風力発電はバードストライクの問題があるように、発電施設をつくれば何らかの影響は生じてしまいます。ここで考えたいのが、自然エネルギーを増やさなかった場合との比較です。このまま火力発電を使って気候変動が進めば、とてつもない規模で環境破壊が進みます。オーストラリアなどの森林火災では、多くの貴重な生態系が失われています。こうした大規模環境破壊を防ぐには、自然エネルギーの拡大が欠かせません。地球規模で環境をどう守るかという視点で考えてほしいと思います。
かつて電力は大きな電力会社に依存して当たり前のものでした。しかし住宅に容易に設置できる太陽光発電や河川を利用する小水力発電、木質バイオマス(注)などの自然エネルギーを利用すれば、電力を自分たちの力でつくれます。既に全国で「わが町の電気は私たちが地元の資源でつくる」という動きが始まっています。電力会社が供給する電気を買えば、そのお金は地域の外に流出しますが、地元の資源を使って自分たちで電気をつくれば、お金は地域の中で循環し、地域経済の活性化になります。こうした活動は、自分たちの地域や社会のエネルギー問題を見直す大きな契機にもなる大変意義深いものです。
またエネルギーをたくさん使う企業も、地球環境のため、自社のイメージ向上のため、もっとクリーンなエネルギーを使いたいと声を上げ始めています。自分たちが使う電気を自分たちでつくり始めた地域やクリーンな電気を求める企業といった電気を使う側のノンステートアクター(非国家主体)がもっと声を上げ、国や自治体のエネルギー政策を変える力になっていくことを期待しています。
2013年から現職。国の気候変動対策の策定に関わる検討会委員を務める。1979年東京都入庁。「ディーゼル車NO作戦」企画立案など国に先駆ける都の環境政策を牽引した。東京大学非常勤講師、世界自然保護基金ジャパン理事、東京都参与。著書に『自治体のエネルギー戦略』(岩波新書)、『現代アメリカ都市計画』(学芸出版社)など。