
地球環境基金便り No.51 (2021年9月発行)
特集生物多様性は、今
「生物多様性」という言葉が生まれたのは1985年。その背景には、世界各地で急激に進み始めた自然破壊に対する危機感がありました。92年には「生物の多様性に関する条約(生物多様性条約)」が採択され国際的な生物多様性保全の枠組みはできたものの、今なお人間は自然環境を改変し、多くの生き物を絶滅の危機に追い込んでいます。
2011~2020年の「国連生物多様性の10年」が節目を迎えた今、世界の、日本の生物多様性はどのような状況にあるのか。そしてこれから必要とされる取り組みとは。自然環境研究センター上級研究員の渡辺綱男先生にお話をうかがいました。
「生物多様性条約」では、生物多様性には3つの多様性があり(表1)、あらゆるレベルの多様性を大切にしていくことが重要だと記されています。なぜ大切にしなければならないのでしょうか。私たち人間は、自然や生き物とつながり、いろいろな"恵み"を受けて います。自然や生き物は気候を整え、水を涵養して人間の生活の基盤をつくってくれます。食べ物や薬の材料を提供し、災害も防いでくれます。また音楽や絵画など文化の根源にも自然や生き物があります。こうした数多くの恵みを受ける一方で、人間は、自然や生き物とのつながりをたやすく壊してしまいます。「生物多様性を大切にする」ということは、そのつながりを尊重し、人と自然のバランスを取り戻していくことだと思います。
2010年に愛知県で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、生物多様性を守るための愛知目標(表2)が採択され、2011〜2020年を「国連生物多様性の10年」と定めて動き出しました。
愛知目標を通じて描くビジョンは、2050年までに人と自然が共生する社会を実現することです。山奥や離島の貴重な自然はもちろんですが、それだけではなく、もっと身近な都市や町、村の自然、農業や林業、漁業など人の暮らしがある地域と自然の関係をより良いものにしたい。そのためには、あらゆるセクターの人の参加が欠かせません。人が生活を営む地域の生物多様性の質を上げるためには、農業・経済関係の行政や農業に携わる生産者、市民団体、その地域に暮らす人など、あらゆる分野の人の参加が求められます。
生物多様性とは、生き物たちの豊かな個性とつながりのこと。
地域に固有の自然があり、それぞれに特有の生き物がいて、それぞれがつながっている